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 今、ヨーロッパでは“ヘンゲルブロック旋風”が巻き起こっている。“新時代到来”を予感させる指揮者トーマス・ヘンゲルブロックと名門オーケストラ、ハンブルク北ドイツ放送交響楽団(以下、北ドイツ放送響)とのコンビによる初の日本公演は、2012年、日本のクラシック音楽界最大の話題となるに違いない。

 一部のコアなファンを除いて、多くの方がトーマス・ヘンゲルブロックって誰?と思われるだろう。それもそのはず。1958年生まれのヘンゲルブロックは、古楽界の巨匠ニコラウス・アーノンクール率いるウィーン・コンツェントゥス・ムジクスのヴァイオリニストを経て、85年、フライブルク・バロック・オーケストラの設立に関わり、指揮活動を始め、95年、ドイツ・カンマーフィルの初代芸術監督(現在の芸術監督はパーヴォ・ヤルヴィ)に就任、その間も、専ら古楽作品の分野を中心に活動を続けてきた、古楽界のエキスパート。モダンなオーケストラで古典派、ロマン派以降の作品を指揮するようになったのはここ数年間のことだ。
 95年には同時に、音楽と演劇、舞踊など他の芸術との融合を実現すべく、バルタザール=ノイマン・アンサンブルを設立、そこでは古楽のみならず現代の作品までも演奏するなど活動の幅を拡げ、2000年にはウィーン・フォルクスオーパーの音楽監督も務めるなど、国際的にも注目を集めた。それでもヘンゲルブロックの活動はそれまでのものと一貫して変わらず古楽中心であり続けた。
 しかし、バイエルン放送響やミュンヘン・フィルなどに登場するや、古楽の世界で培ってきた豊かな音楽性に裏打ちされた、これまでにない新鮮な演奏スタイルが高く評価され、多くのファンを生み出し、たちまち風雲児となった。そのことは、2011-12年シーズンからの北ドイツ放送響首席指揮者就任に留まらず、同じく2011年バイロイト音楽祭での《タンホイザー》指揮という大抜擢(古楽界出身の指揮者としては初の快挙)とその大成功が全てを物語っている。

 北ドイツ放送響は、20世紀を代表する巨匠ヴィルヘルム・フルトヴェングラーが指揮台に立ち、ハンス・クナッパーツブッシュ、エーリヒ・クライバー、オットー・クレンペラー、カール・ベームといった錚々たる指揮者が客演、ギュンター・ヴァントが首席指揮者の時代には、国際的にも高く評価され一世を風靡したドイツの名門オーケストラ。
 ヘンゲルブロックが昨年9月、北ドイツ放送響の首席指揮者就任披露公演で選んだ曲は、今回の日本公演でも披露するベートーヴェンの交響曲第3番〈英雄〉。筆者はその公演を幸いにもインターネットラジオで聴き、後日映像でも確認することができた。指揮棒を持たず、必要最小限の動きでコントロールしながら、楽しそうに指揮するその姿が印象的だった。ホルン、トランペット、ティンパニなどに古い時代の楽器を取り入れ、弦はビブラートを少し抑え、比較的速めのテンポでアクセントを強くするなど、古楽奏法(ピリオド奏法)を取り入れながらの演奏は、渋く重厚な響きが特徴的だった北ドイツ放送響に、軽快で透明度の増した響をプラス、これまで聴いたことがないその新鮮な音楽と面白い化学変化に瞠目した。

 今回の日本公演のプログラムは、ブラームスの交響曲第1番をメインに、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲、モーツァルト《フィガロの結婚》序曲。ブラームスはハンブルク出身の作曲家で北ドイツ放送響にとって最も大事な作曲家のひとりであるばかりでなく、設立当初、フルトヴェングラーが指揮した記念碑的作品(録音も残っている)。ヴァイオリン協奏曲のソリストは、ドイツの誇る現代最高のヴァイオリニストのひとり、クリスティアン・テツラフ(大阪公演は竹澤恭子)。
 首席指揮者就任後、初来日で選んだプログラムは“超”のつく名曲ばかり。そこにヘンゲルブロックと北ドイツ放送響の揺るぎない自信を感じるが、ヘンゲルブロックには、ギュンター・ヴァントが築いた黄金期に次ぐ、新たな黄金期創造の担い手としての期待が高まる。

(文:唯野正彦)


公演概要

ハンブルク北ドイツ 放送交響楽団


■大阪公演

5/27(日) ザ・シンフォニーホール(大阪府)
<出演>
指揮:トーマス・ヘンゲルブロック
ヴァイオリン:竹澤恭子
管弦楽:ハンブルク北ドイツ放送交響楽団
<曲目>
モーツァルト:オペラ「フィガロの結婚」 序曲
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 op.64
ブラームス:交響曲 第1番 ハ短調 op.68
<発売日程>
一般発売:発売中


■東京公演

5/29(火) サントリーホール(東京都)
<出演>
指揮:トーマス・ヘンゲルブロック
ヴァイオリン:クリスティアン・テツラフ
<曲目>
モーツァルト:オペラ「フィガロの結婚」 序曲
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 op.64
(ヴァイオリン:クリスティアン・テツラフ)
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 op.68
<発売日程>
座席選択先行:発売中〜1/17(火)
一般発売:1/21(土)〜

2012-01-12 15:18 この記事だけ表示

ウィーン・フィル首席クラリネット奏者のペーター・シュミードル他、ウィーン・フィルのメンバーとウィーン国立歌劇場の精鋭30名が、今回も特別編成のオーケストラ(指揮者なし)を結成し、本場ウィーンの芳醇な調べを響かせる!

 毎回、世界トップクラスの演奏をリーズナブルな価格で聴かせてくれる『トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン コンサート』。2011年は残念ながら震災の影響で中止となったが、2012年は全国7都市7回公演を予定。今回も日本のソリストと共演する「ウィーン・プレミアム・コンサート」と、尾高忠明指揮・名古屋フィルハーモニー交響楽団と共演する「ウィーン・グランド・コンサート」の2つのコンサートが開催される。
 「ウィーン・プレミアム・コンサート」は、A・B、2つのプログラムに分かれており、プログラムAにはソリストとして、世界最難関と呼び声の高いハノーファー国際音楽コンクール史上、最年少16歳で優勝したヴァイオリニストの三浦文彰が登場する。現在、ウィーンで研鑽を積んでいる彼と「トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン」との共演は楽しみの一言!
 一方のプログラムBでは、超絶的なコロラトゥーラとリリックな声を併せ持ち、内外で高い評価を得ているソプラノ歌手、天羽明惠がシューベルトとJ.シュトラウスII世を。そして両プログラムには、まさにウィーン・フィル(!)と喝采を贈るであろう、モーツァルトの後期3大交響曲のひとつ第40番と“プレミアム”に相応しい内容となった。
 そして、プログラムCとなる「ウィーン・グランド・コンサート」では、名フィルとの共演で迫力のサウンドが体現できる、R.シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」、ソリストに日本を代表するピアニストの一人、小山実稚恵を迎えた、チャイコフスキーの協奏曲と、ロマン派の傑作が並ぶ。
 クラシック界の頂点に君臨するウィーンのトップ・プレイヤーによる、華麗なる宴――圧倒的といえる“究極”のアンサンブルを、ぜひご堪能あれ!

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[公演日程]
《ウィーン・プレミアム・コンサート》プログラムA

4月5日(木) 札幌コンサートホールKitara 19:00
4月7日(土) イズミティ21(仙台)18:00
4月11日(水) 岩手県民会館 19:00
料金:S席5,500円/A席4,500円/B席3,000円(全席指定/税込み)

♪ロッシーニ:歌劇「アルジェのイタリア女」序曲
♪モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲 第2番 ニ長調 K.211
 (ヴァイオリン/三浦文彰)
♪C.シュターミッツ:クラリネットとファゴットのための協奏曲 変ロ長調
 (クラリネット/ペーター・シュミードル、ファゴット/シュテパン・トゥルノフスキー)
♪モーツァルト:交響曲 第40番 ト短調 K.550

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[公演日程]
《ウィーン・プレミアム・コンサート》プログラムB

4月4日(水) サントリーホール(東京) 19:00
4月6日(金) ザ・シンフォニーホール(大阪) 19:00
4月9日(月) アクロス福岡シンフォニーホール(福岡)
19:00
料金:S席5,500円/A席4,500円/B席3,000円(全席指定/税込み)

♪J.シュトラウスU世:春の声 Op.410
 (ソプラノ/天羽明惠)
♪J.シュトラウスU世:喜歌劇「こうもり」序曲
♪J.シュトラウスU世:喜歌劇「こうもり」より “侯爵様、あなたのようなお方は”
喜歌劇「こうもり」より “田舎娘の姿で”
 (ソプラノ/天羽明惠)
♪シューベルト:イタリア風序曲 ハ長調 D.591
♪シューベルト:オッフェルトリウム「心に悲しみを抱きて」ハ長調 D.136
 (ソプラノ/天羽明惠、クラリネット/ペーター・シュミードル)
♪ベートーヴェン:ロマンス 第2番 ヘ長調 Op.50
 (ヴァイオリン/フォルクハルト・シュトイデ)
♪モーツァルト:交響曲 第40番 ト短調 K.550

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[公演日程]
《ウィーン・グランド・コンサート》プログラムC

4月3日(火) 愛知県芸術劇場コンサートホール(名古屋) 18:45
料金:S席6,500円/A席5,000円/B席3,500円(全席指定/税込み)

♪ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」序曲
♪チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 Op.23
 (ピアノ/小山実稚恵)
♪R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」Op.40
 (コンサートマスター/フォルクハルト・シュトイデ)

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お問合せ:トヨタ・マスター・プレイヤーズ事務局 03-5210-7555
オフィシャルホームページ

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この絶好の機会をお見逃しなく!

2011-11-22 18:15 この記事だけ表示

 今年5月に世界最高峰のオーケストラであるベルリン・フィルの定期演奏会にデビューしたことでも話題となった佐渡裕が日本フィルと共演し、マーラーの交響曲第6番「悲劇的」を指揮する。

■横浜公演/サントリー公演

■大宮公演

若き日、佐渡裕は、最晩年の巨匠レナード・バーンスタインに師事した。指揮だけでなく、作曲や教育活動でも類稀なる才能を発揮したバーンスタインは、間違いなく20世紀最高の音楽家の一人だった。そんなバーンスタインが最も得意としていたレパートリーがマーラーにほかならない。あまりに巨大で圧倒的な音楽のため、20世紀半ばまで聴衆にはあまり理解されなかったマーラーの交響曲をバーンスタインは、1960年代から70年代にかけていち早く全曲録音し、後のマーラー・ブームの礎を築いたのであった。
 バーンスタインに薫陶を受けた佐渡にとっても、マーラーは大切なレパートリーである。特に交響曲第6番は、早くも1990年の新日本フィルの定期演奏会デビューで指揮し、最近では、2007年には自らが芸術監督を務める兵庫芸術文化センター管弦楽団の定期演奏会でも取り上げている。また、2010年3月には、佐渡が長年、首席指揮者を務めたパリのラムルー管弦楽団との演奏会でもマーラーの交響曲第6番を手掛けた。まさに佐渡にとって、伝家の宝刀というべきレパートリーである。
 マーラーの交響曲第6番「悲劇的」は、彼の中期の傑作。声楽を含む交響曲(第2、3、4番)や5つや6つの楽章からなる大規模な交響曲(第2、3、5番)の創作に挑んでいたマーラーは、この第6番では、純粋器楽による古典的な4楽章構成の交響曲に回帰した。と同時に、彼は、木製のハンマー、カウベル、鉄琴、木琴、鞭、チェレスタなどをオーケストラのなかに持ち込み、新しい音響を作り出そうともした。交響曲第6番は、「英雄が運命による打撃を受け、最後に打ち倒される」といわれる、悲劇的な内容を持つものだが、その一方で、第1楽章第2主題で妻アルマが表されるなど、愛情に満ちたロマンティックな音楽を聴くこともできる。佐渡は、師バーンスタインのように作品に没入し、この交響曲をドラマティックに描いてくれるに違いない。そして、ヨーロッパで多くの経験を経た佐渡が、一層深まりのある演奏を披露してくれるだろう。
 日本フィルは、今年で創立55年を迎えた日本を代表するオーケストラの一つ。現在、ロシアの名匠、アレクサンドル・ラザレフを首席指揮者に迎え、ますます演奏水準を向上させている。また、首席客演指揮者のピエタリ・インキネンとマーラーの交響曲のシリーズにも取り組んでいる。情熱的な佐渡裕と熱のこもった演奏で知られる日本フィルとのコラボレーションは、大いに期待できる。
 「題名のない音楽会」の司会でも人気のある佐渡裕。もちろん、この5月にベルリン・フィル定期演奏会デビューを飾っただけでなく、昨年はイタリアのトリノ王立歌劇場でオペラ「ピーター・グライムズ」を指揮し、今年は、パリ管弦楽団、フランス国立管弦楽団、BBCフィル、バイエルン州立歌劇場管弦楽団などに客演したほか、この秋にはベルリン・ドイツ交響楽団の日本公演を成功に導くなど、指揮者としても進境が著しい。マーラーの交響曲第6番「悲劇的」は、そんな彼の現在を知るにふさわしい大作といえる。まさに聴き逃せない演奏会である。

(文/山田治生)


公演概要

日本フィルハーモニー交響楽団 指揮:佐渡裕

<公演日時・場所>
2012/5/25(金)19:00開演 大宮ソニックシティ
2012/5/26(土)18:00開演 横浜みなとみらいホール
2012/5/27(日)14:30開演 サントリーホール

<出演>
指揮:佐渡裕
演奏:日本フィルハーモニー交響楽団

<曲目>
マーラー:交響曲第6番《悲劇的》

<ファンサイト先行受付>
■ 横浜公演/サントリー公演
【座席選択先行受付】発売中〜12/6(火)18:00
■ 大宮公演
【プレオーダー受付】11/18(金)12:00〜21(月)18:00
>>佐渡裕 オフィシャルファンサイトはこちら

<一般発売>
■横浜公演/サントリー公演
座席選択先行  12/1(木)12:00〜12/6(火)18:00
一般発売 12/8(木)〜

■大宮公演
11/25(金)〜
※一般のみ

2011-11-16 12:54 この記事だけ表示

左から横山幸雄、山田和樹

 今年5月、ショパン212曲の18時間におよぶ質の高い演奏で魅了した、今のクラシック界の頂点ともいえるピアニスト・横山 幸雄、そして2012年にスイス・ロマンド管弦楽団創立以来初めて設置する首席客演指揮者というポジションを得、世界から熱い 注目を浴びている指揮者・山田和樹―――。この今を代表する天才2人が、今年2011年12月31日、夢の共演を果たす。

 今回ジルヴェスターコンサートで取り上げるのは、大きな困難を音楽の力で乗り越えたルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴ ェン。ピアノコンチェルト全曲と、主要ピアノソナタ(横山幸雄によるピアノソロ)を一晩のプログラムで一気に演奏するとい う7時間の長大なコンサートとなる。

 「東日本大震災で苦難に直面した2011年。今年を締めくくるコンサートには、どうしてもベート ーヴェンを取り上げたかった」と横山幸雄は語る。「震災の復興は10年20年という単位の時間を要するものである上に、その間 にも別の喪失感と向き合う可能性もあるかもしれません。でも僕は演奏家なので、ベートーヴェンというひとりの音楽家の人生 と、彼の遺した作品を音楽で辿り、絶望の淵から新たな境地に辿り着いたその過程を一晩でみせることしか出来ないのです。そ れが少しでも、お客さんにとってのエネルギーになると信じたいと思います。」

 横山幸雄が今回ベートーヴェンのコンチェルト全曲を演奏するにあたり、ラブコールを送っ たのは指揮者・山田和樹。横山幸雄とは、実は16年前に、演奏家と観客、という立場で出会っていた。「高校2年生のときに、初 めて横山幸雄さんを演奏会で見て、その堂々たる存在感、スター性に圧倒されました。」と語る山田和樹。「横山さんの演奏は 、音楽が関連性を持って繋がっていることを実感させ、まるで風が吹くような、波がざわめくような、素晴らしい時空間を創り 出していました。そして昨年10月、ある演奏会で初めて横山さんと共演するお話を頂きました。雲の上の人のような手の届かな い方と共演出来る喜びに、僕自身、非常に幸せな想いで一杯でした。」今回、横山幸雄からコンサート出演のオファーをもらっ たとき、即快諾した。「ベートーヴェンのピアノコンチェルト全曲を一晩で演奏するなど、普通はありえないことです。僕自身 も未知の領域で、どんな音楽を創り出すことが出来るのか、今から本当にわくわくしています。」


 横山幸雄も山田和樹のタクトに大きな信頼を寄せる。「コンチェルトを演奏するとき、最終的にその音楽の全ては指揮者にゆ だねられていますよね。」と横山氏。「指揮者がどう振るのかと同時に、ソリストが指揮者にどう振っていただくように感覚を 伝えられるか。つまりは指揮者とソリストの間のコミュニケーションが上手くいくかいかないかで、音楽は決まってくるのです 。もちろん、多くの経験をつんだ指揮者の中には、どんなに難しいポイントでもきっちりできる方もいて、それにより僕も弾き やすかったという経験もあります。しかしそんなことよりも、音楽の共同作業という観点から山田和樹さんに感じたのは、指揮 の山田さんがソリストである僕の感覚を全て汲み取った上で、まるで僕がひっぱっていっているような素振りをみせながら、実 際には山田さんがひっぱっていってくれている、という感触でした。音楽のコミュニケーションがなんとスムーズにいく方なの だろうと実感したのです。」それ以来、横山幸雄は山田和樹にラブコールを送り続け、今回それが実現した。「僕には、今回の ジルヴェスターコンサートで山田和樹さんが僕と対峙するときの感触が、今から手に取るように判ります。今回も必ず期待通り になることを、確信しています。」

 そんな二人が今回ベートーヴェンの人生を音楽で辿る。クラシック音楽を芸術へと昇華させ たベートーヴェンの音楽は、その波乱に満ちた人生とは切り離せないものだ。横山幸雄はピアノコンチェルトを第一番から第五 番まで通して演奏することに、大きな意義があると語る。「第一番のころのベートーヴェンは、病気とは無縁の颯爽としたベー トーヴェン。第二番も第一番より以前に書かれているので、こちらもどちらかというと非常に軽やかな印象。しかし、第二番と 第三番の間には大きく隔たりがあります。第三番では、ベートーヴェンの心が葛藤しています。もしかしたら耳がおかしいのか もしれないという不安感と戦っている様子が伝わってくるのです。そしてその不安感が訪れた同時期に、ベートーヴェンは、今 までの音楽の常識を塗り替えるという偉業を成し遂げました。長い歴史の中で音楽は教会や宮廷に貢献するものでしたが、これ を個人のものとして創りあげ、人間賛歌の芸術として昇華させたのです。そして第四番になると、ベートーヴェンの音楽は、天 国に入ったような気配を感じさせます。最後の第五番では、現実としてその天国を受け入れるだけではなく、そこに力強さと輝 かしさを表現しています。」コンチェルト5曲の中には、ベートーヴェンの人生と考え方が凝縮されている、と語る横山氏。

 タクトを振る山田和樹は、ベートーヴェンのピアノコンチェルトの難しさをこう語る。「特 にそれぞれのコンチェルトの第二楽章が非常に深いんです。ベートーヴェンの哲学が凝縮されています。その哲学が伝わるよう な演奏は、世の中にもそんなに多くないと思います。僕は今回、これを大きな課題にしたいと思います。それから、ピアノコン チェルト第四番の中に、まずオーケストラがバン、と演奏して、その後ピアノがピアニッシモを奏でる、という場面があります よね。このオーケストラのほうは僕自身で管理できますが、第四番は、オーケストラとピアノとの1対1の対話によって方向性を 作っていく曲です。つまり、指揮者とソリストとの共同作業で、ベートーヴェンの内面に入っていけるかどうかが決まってくる のです。お互いが感じているものが違うと難しいんですよね。」 そして山田和樹はこう続けた。
 「音楽は言葉にすると失われてしまう部分が多いんです。音楽にはファンタジーが存在していて、それは決して言葉に出来な いものなんですよ。心と心とが感じているもので、どんどんつながっていく、頭と心の通い合いです。特にコンチェルトでは、 そこが独特の面白さなんです。」


  ベートーヴェンがピアノコンチェルト第五番を完成させたのは39歳。横山幸雄にとっても山田和樹にとっても、ベートーヴェン がこの作品に取り組んだ年齢と同年代に、二人の共演が実現したことになる。最後に、このベートーヴェンジルベスターコンサ ートへの意気込みを、との問いに二人の返答がシンクロした。
 「苦悩を抜けて歓喜へ、音楽の力で乗り越えたベートーヴェン。これからの新しい日本、元気になる日本へ、ひとつのメッセ ージを発信できたらと、心から願っています。」

(TOKYO FMプロデューサー 松任谷玉子)


公演概要

TOKYO FM
横山幸雄 ベートーヴェン ジルベスターコンサート

<公演日時>
2011/12/31 (土) 開場/17時00分 開演/17時30分 終演/24時45分
[第1部] 演奏時間/17時30分〜21時15分
[第2部] 演奏時間/22時00分〜24時45分
※ 開場/開演、終演時間は変更になる場合があります。

<場所>
東京オペラシティ コンサートホール(新宿区西新宿3-20-2)

<出演>
横山幸雄(ピアノ)、山田和樹(指揮)、
横浜シンフォニエッタオーケストラ

<曲目>
《第一部》
ピアノ協奏曲第1番 op.15
ピアノソナタ第8番 op.13「悲愴」
ピアノソナタ第14番 op.27-2「月光」
ピアノ協奏曲第2番 op.19
ピアノソナタ第17番 op.31-2「テンペスト」
ピアノ協奏曲第3番 op.37
《第二部》
ピアノソナタ第21番 op.53「ワルトシュタイン」
ピアノソナタ第23番 op.57「熱情」
ピアノ協奏曲第4番 op.58
〜カウントダウン〜
ピアノ協奏曲第5番 op.73「皇帝」


2011-11-01 16:26 この記事だけ表示

左から萩原麻未(ピアノ)、神尾 真由子(ヴァイオリン)

 東芝グループの芸術文化支援活動の一環として毎年、世界各国の著名な指揮者・オーケストラを招聘、世界を舞台に活躍している豪華なソリストを招き、 公演を提供してきた『東芝グランドコンサート』。2012年は、さらなる活躍が期待されている話題の指揮者フランソワ=グザヴィエ・ロト率いる南西ドイツ放 送交響楽団バーデン=バーデン&フライブルク(以下、南西ドイツ放送交響楽団)を招いての公演。ソリストにはヴァイオリニストの神尾真由子さん、ピアニ ストの萩原麻未さんを迎える。

 なかでも話題と注目を集めるのが、昨 年、ジュネーヴ国際音楽コンクール〈ピアノ部門〉で日本人初の第1位獲得という快挙を成し遂げたピアニスト、萩原麻未さん。ジュネーヴ国際音楽コンクール はこれまで、ミケランジェリ、グルダ、アルゲリッチ等、錚々たるピアニストを輩出しながらも、あの現代最高のピアニストの一人、マウリツィオ・ポリーニ でさえも第1位を得ることはできなかったほど(2年連続第2位)、また第1位を出さないことで有名な厳しいコンクール。萩原さんの第1位受賞は日本人初として だけでなく、〈ピアノ部門〉では実に8年ぶりのことだった。
 「優勝どころか、まさかファイナルに残れるとは思っていなかった」、という萩原さん。ファイナルに進み、優勝したことで今まで見えなかった世界が見え てきたり、出会えなかった人たちと出会えたのはとても貴重な体験だった。

 「スイス・ロマンド管弦楽団と共演させていただけるというだけで嬉しかったのですが、あのときは、ああ終わっちゃった、という悲しい気持ちがすごく強 かったですね。自分の演奏の前に〈オーボエ部門〉があり、そこで初めて彼らの演奏を聴いたんです。すごく感動して、自分もあのなかで弾けるんだ、という のがすごく嬉しかった。もちろんすごく緊張していたんですが、怖いとか落選したらどうしようとかいう気持ちはまったくなく、それよりも、スイス・ロマン ド管弦楽団と同じ舞台に立てるという嬉しさの方が勝っていました」

 一番好きな作曲家はシューマンだというが、ファイナルで選んだ作品は『東芝グランドコンサート』でも演奏するラヴェルのピアノ協奏曲ト長調。ジャズの 要素を盛り込んだ陽気な第1,3楽章と、叙情的で美しい第2楽章で有名な名曲だ。フランスものを積極的に取り入れている彼女にとって、もちろんラヴェルも好 きな作曲家。「自分が得意かどうかというよりも、聴いてくださった方がいい作品だなあと思ってくださる方が嬉しい」という想いからラヴェルを選んだ。
 コンクールでの彼女の演奏を振りかえると、特に第2楽章が印象に残る。若手のピアニストとは思えないほど成熟した、朗々とした歌心に充ち満ちた演奏だっ た。
 「ファイナルの前は眠られないほど緊張していました。でも、オケの方と話をする機会があり、第2楽章の歌い方はソロを吹かれるイングリッシュ・ホルンの 方から影響を受けたところが大きいかもしれません」
 パリを拠点に活動を続け、パリ国立高等音楽院(コンセルヴァトワール)に在学中の萩原さんは、すでにマスタークラスを終え、現在は室内楽専攻の2年生だ 。室内楽を通じての他者との演奏体験が彼女の“現在”を生み出しているに違いない。
 「室内楽は楽しいです。今は、一人で弾くことよりもむしろ、誰かと一緒に音楽を創ることの方に興味があります。すごく心通ったところがあった時に、終 わったあとみんなでその喜びを分かち合えるというのは、何者にも代え難いです」


 ラヴェルのピアノ協奏曲をオーケス トラと共演したのはコンクールが初めてだった。今年になり、4月にパリでの東日本大震災のチャリティーコンサート、そして、7月には故郷広島での広島交響 楽団との共演でも披露した。
 「コンクールで共演させていただいたスイス・ロマンド管弦楽団の演奏に刺激されて、終わった後、もっと弾きたい、もう一度弾きたい、という気持ちがす ごく強くなり、今は何度弾いてもまた弾きたくなります。ラヴェルを弾いていると、オーケストラの個々の楽器と対話しながら、オケの一員として演奏してい るような気持ちになるんです。今度は『東芝グランドコンサート』で何回か弾かせていただくのですごく嬉しいです」

 これまで何度かラヴェルを弾き、その都度生まれてくる音楽にも変化が現れる。指揮者からも多くを学んだ。
 「オーケストラと共演するということは、自分以外の誰かと一緒に演奏するわけで、自分がどう演奏したいというよりも、どう演奏すればより音楽に馴染め るか、いい演奏になるかを考えながら演奏しています。7月に指揮していただいた飯森範親さんからは、学ぶことが多かったです。飯森さんがオケの方に指示さ れるのを聞いているとすごく勉強になりました。そうしたなかで私も変わって行ったところもありました」

 一日に5、6時間ほど練習するそうだが、気持ちが向かないこともある。そんなときは、ピアノ以外の事で気分転換することを大切にしている。よく散歩する が、そこから学ぶことも多い。
 「学校の周りを散歩したり、美術館に行くことが多いですね。可能な限りそうした時間は作るようにしています。街がほんとうに綺麗なので、散歩している うちにあのフレーズはこう・・・と、音楽のイメージが湧いてくるんです」


 好きな演奏家や影響を受けた演奏家は 多いが、目標にしている演奏家はいない。そう話す彼女の口調には、すでに確固たる自信がみなぎっている。
 「自分の道は自分でしか創っていけないと思うんです。もちろん尊敬する演奏家はたくさんいて、日々学ぶことばかりです。その他にも、モネやゴッホの絵 からも触発されたりします。
 いろんな経験をし、いろんなものに触れ、自分から離れているところにあるものから影響を受ける方が、自分の考えがはっきりとしてくることが多いように 思います」

 『東芝グランドコンサート』では、フランソワ=グザヴィエ・ロトさん、南西ドイツ放送交響楽団ともに初の共演となる。
 「ロトさんにはすでにお会いしました。すごくフレンドリーな方でした。マエストロにもラヴェルを聴いていただいたのですが、ぜひ多くの日本のみなさん にもラヴェルを生で聴いてもらいたいというマエストロの意向もあり、ラヴェルを弾かせていただくことになりました」

 ドイツのオーケストラのなかでも近現代の作品を得意とする南西ドイツ放送交響楽団。スイス・ロマンド管弦楽団とはまた違った現代的かつドイツ特有の響 きに包まれ、萩原さんのラヴェルがどう化学変化するだろうか。
 「何かを演奏するときに、自分がこう弾くんだというよりも、むしろ、聴衆のみなさんから聴き終えた後に、こんなにいい曲だったんだ!!と言っていただ けるのが一番嬉しいんですね。ラヴェルのピアノ協奏曲をお好きな方も多く、みなさんそれぞれの作品への想いがあると思いますので、私自身がそこまでどれ だけ近づけるか。期待を裏切らない演奏で応えたいです」

 また、ヴァイオリニストの神尾真由子さんはシベリウスで共演する。聴衆を圧倒する音色が特徴的な彼女のヴァイオリンからは、渋く劇的なシベリウスを聴 けることだろう。
 他に、マーラーの交響曲第5番、ベートーヴェンの交響曲第3番〈英雄〉などが予定されている。
*公演日程により、出演者、プログラムなどが変わります。

(取材・文:唯野正彦)

2011-10-03 18:30 この記事だけ表示