“ロッシーニ・マニア”のさらなる増殖必至!ペーザロが贈る世界最高のロッシーニで陶酔の境地へ!![公演情報]
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 7、8月のヨーロッパはバカンスシーズンなので、多くの歌劇場が閉まっている代わりに、避暑地を中心とした各所で音楽祭が開かれる。そのなかで今、活気があるのはどの音楽祭だろう。ザルツブルク、エクサンプロヴァンスとさまざまな名が挙がるだろうが、私は迷わずイタリアのアドリア海に面した避暑地ペーザロで行われている、ロッシーニ・オペラ・フェスティバル(ROF)を挙げる。10年ほど続けて、ここで上演されたオペラを一演目も欠かさず観ているが、その上演水準が高いのはもちろん、最近の盛り上がり方も凄いのである。

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 90年代までは当日でもラクにチケットが買えたのに、最近は賛助会員でも申し込みが遅れると買えないほどの人気ぶりに驚かされる。日本人も年々増え、時には会場の1割前後を占める。なぜそれほど聴衆が増えたのか。答えは簡単である。水準の高さが喧伝されて人が集りはじめたのだが、一度ここでオペラを観ると魅力に取りつかれ、病みつきなる。つまり定着率がすこぶる高いのである。最大の理由は、ロッシーニのオペラの魅力そのものにある。

“ロッシーニ・ルネサンス”という言葉をご存じだろうか。ロッシーニのオペラは、《セビリャの理髪師》など一部を除けば、大抵の作品が忘れられていたし、《セビリャ》等にしても、後世の演奏慣習にまみれて本来の姿とはかけ離れてしまっていた。そこで、ペーザロのロッシーニ財団が楽譜の上に積もった“埃や手垢”を払い、批評校訂によってできるかぎり作曲時の姿に戻す努力をはじめたのである。するとどうだろう、ロッシーニの音楽はそれまで考えられていたのと違い、旋律美にあふれ、アンサンブルは陶酔的で、そのうえ闊達にして洒脱だということがわかり、同時に、世界中でロッシーニのオペラの上演が増えていった。ペーザロはその震源地なのである。
 そして1980年にROFが開幕し、財団の研究と肩を組みながら、埋もれたロッシーニ作品が次々と蘇演されていったのだが、難問はあった。多くの旋律がコロラトゥーラなどの装飾で彩られたロッシーニ作品を正しく演奏するためには、長いこと忘れられていたベルカントの超絶テクニックが歌手に求められたのである。そこでペーザロでは、ロッシーニの時代の歌唱研究を続けると同時に、現代の歌手にそれを伝える指導を徹底し、結果、多くの歌手が巣立ち、彼らがまたROFの魅力を高めていった。

 こうして蘇った最高のロッシーニが、世界でもここペーザロでだけ毎夏楽しめるようになり、この作曲家が1810年代から20年代にかけてヨーロッパを興奮の坩堝に陥れたわけを、聴衆は身をもって知ることになる。知性と感性を最高度に刺激する純粋な音楽美、官能的な旋律とスリリングな音楽構成、その洗練と洒脱――それを存分に味わえる幸せといったらないし、超絶技巧が必要な装飾満載の旋律が完璧に歌われたとき、聴き手が受ける興奮は、とても言葉では言い表せない。
 先ほど、定着率がすこぶる高い、と述べたが、一度この魅力に触れると、通い詰めずにはいられなくなるのである。これまでザルツブルクやワーグナーの聖地バイロイトに通っていたけれど、いちどペーザロに来たらはまってしまった、という人も多い。あるいはバイロイトと掛け持ちしている人も少なくない。ロッシーニとワーグナーは音楽的には遠いけれども、両者には人を陶酔させるという共通点があるらしい。いわゆる“マニア”が多い作曲家は、圧倒的にこの2人だろう。そしてペーザロは毎夏、大量のロッシーニ・マニアを受け入れ、新たに生み出している。

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 さて、そんなROFの日本公演が、ついにこの11月に実現してしまう。私はマニアのひとりとして、少しでも多くの人にロッシーニの本当の魅力を味わってもらいたいと思う反面、ロッシーニ・マニアがこれ以上増えて、ペーザロをはじめとするロッシーニのオペラ公演に押し寄せるようになったらどうしよう、と危惧してもいる。複雑な心境である(一度公演を観た人は、かなりの確率でマニアになることを、私は実地で確認済みなので)。
 なにしろ、演目がすごい! まずは《オテッロ》だが、ヴェルディの《オテッロ》が、音楽と言葉を最高度に一致させた作品だとすれば、ロッシーニのそれは、最高の音楽美を通してドラマを表現している。オテッロもヤーゴもロドリーゴもみなテノールで、それぞれが超絶技巧を必要とし、まさに超絶的なアリアや二重唱をつうじて場面や感情を、時に美しく、時にスリリングに、時に激しく掘り下げていく。しかもオテッロ役は力強い声で超絶的な装飾歌唱をこなし、昨年のペーザロを興奮の坩堝に巻き込んだグレゴリー・クンデ。デズデーモナの〈柳の歌〉なども、美の極みである。

 《マホメット2世》は、本格的な歴史劇で、ロッシーニの力の入れようは少し聴いただけでも伝わることだろう。悲劇的で音楽が美しい旋律と、凝りに凝った瀟洒なオーケストレーションに彩られている。重厚と軽快の微妙な均衡。私は、ロッシーニのオペラのなかで最も完成度が高い作品のひとつだと思っているが、それをROFの芸術監督にしてロッシーニ・ルネサンスの立役者であるアルベルト・ゼッダが自ら指揮するというから、それだけで興奮ものだ。この人以上にロッシーニを洒脱に指揮できる人は、私の知るかぎり過去にもいない。しかもタイトル・ロールは、知性派で、ロッシーニをスタイリッシュに歌わせたら右に出る人がいないバス、ロレンツォ・レガッツォである。
 特別コンサートで演奏されるカンタータ《テーティとペレーオの結婚》も、オペラに負けず劣らず、最高の旋律とアンサンブルに満たされていることも書き添えておかなくてはならないだろう。

 こうして書きながらも、つい興奮してしまう。そこがペーザロのペーザロたる所以である。あの夏の陽射しを受けた白い砂浜と青い海、そして最高のシーフードは伴わないにしても、世界最高水準のロッシーニがそのまま日本に来る! 来年のROFのチケット争奪戦は、日本公演によって大量に増殖したロッシーニ・マニアが参戦し、これまでになく熾烈を極めることだろう。


◎香原斗志(かはら・とし):音楽ジャーナリスト、オペラ評論家。オペラのわかりやすい解説と、声の分析に定評がある。公演プログラムや雑誌等への執筆多数。著書に『イタリアを旅する会話』。音楽サイトに「オペラの主人公たち」連載中。


【公演情報】
◆「マホメット2世」
11/18日(火)、11/23(日)
Bunkamuraオーチャードホール

◆「オテッロ」
11/20(木)、11/22(土)
Bunkamuraオーチャードホール

◆特別コンサート「ロッシーニ・ナイト」
11/21(金)
Bunkamuraオーチャードホール

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2008-06-11 16:10 この記事だけ表示
 
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