“ロシア・オペラの殿堂”が約束する、これぞ最高のチャイコフスキー体験。叙情の世界を極めつくした《エフゲニー・オネーギン》と《スペードの女王》に、聴衆はノックアウト必至![公演情報]
 ロシア・オペラの中から、おまえの好きな作品を最高の条件で見せてやるからいくつか選べ、と言われたら、私は真っ先にこの2作を選ぶ。チャイコフスキーの《エフゲニー・オネーギン》と《スペードの女王》。あの美しい叙情的な音楽に浸れる喜びは、なにものにも代えがたいからだ。色彩と陰影に富んだオーケストレーション、ロシア語の美しさが際立った情感あふれる歌唱部、それらによって導かれる微妙な心理の展開――。オペラの魅力は多々あるけれど、この2作は、食品にたとえるなら栄養バランスが非常によく取れている。公演後に「ああ、いいオペラを見たなあ」と、まさに全身が喜ぶような作品なのである。
 しかも、それを“ロシア・オペラの殿堂”が上演してくれるならば、そんなにうれしいことはないではないか。ロシアにおける“オペラの殿堂”といえば、ボリショイ・オペラに止めを刺す。

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[ボリショイ劇場内観]

 ロシア・オペラといえば、いまではワレリー・ゲルギエフ率いるサンクト・ペテルブルクのマリインスキー劇場のほうが有名かもしれない。事実、ロシア帝国時代には、マリインスキーとボリショイは、ロシアの芸術を支える両輪だったのだが、ロシア革命後の1918年に首都がペテルブルクからモスクワに移ってからは、ソビエト政府の全面的な援助の下、ロシアの舞台芸術を一身に支えてきたのは、じつはボリショイだったのである。
 もっとも、国家に支えられた“殿堂”であったばかりに、ソ連邦の崩壊後、援助を断ち切られて、一時は瀕死の状態に追い詰められていたのも事実だけれど、近年、ロシア政府による援助が再開してからは、企業からの支援金も続々と集まりはじめ、昔日の勢いを取り戻すばかりか、かつて以上の水準を誇るようになっている。まさに不死鳥のごとく蘇ったわけだが、それも当然だろう。国家を代表する“オペラの殿堂”ならではの膨大な芸術的蓄積は、一時的に落ちぶれたくらいで薄らぐことなどけっしてない、いわば色濃いDNAなのだ。

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[スペードの女王]

 さて、蘇った“ロシア・オペラの殿堂”14年ぶりの来日。持ってくるのは、チャイコフスキーの最高の2作。ただし、私は大好きな作品であるだけに、いささか条件をつけたい。その1。チャイコフスキーならではの、叙情的でメランコリックな音の世界は、洗練された美しい舞台美術の下で、優雅な動作とともに見せてほしい。美しい舞台でないと、目に見えるものと耳に聴こえるものが齟齬を来たしてしまうのだ(それは、各地でたびたび起きている)。その2、これらの作品ならではの言葉の美しさを際立たせるために、美しいロシア語で歌える歌手を揃えてほしい。その2点である。
 で、それらの要求は満たされるかといえば、映像を見るかぎり、舞台はともに極めて美しく、洗練の極みとさえいえる。よし! そして歌手は、ネイティブの実力派歌手で固められ、かつ、ガルージンをはじめとして国際的名声を得ている逸材も並べられている。よし! もちろん、音楽監督ヴェデルニコフ(《オネーギン》)とプレトニョフ(《スペードの女王》)が舵を取るオーケストラは、チャイコフスキーの叙情とメランコリーを、このうえなく雄弁に表現するに違いない。最高のチャイコフスキー体験が待っている――。それを疑う余地は微塵もないといえるだろう。

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[オネーギン]

◎香原斗志(かはら・とし):音楽ジャーナリスト、オペラ評論家。オペラのわかりやすい解説と、声の分析に定評がある。公演プログラムや雑誌等への執筆多数。著書に『イタリアを旅する会話』。音楽サイトに「オペラの主人公たち」連載中。

【公演情報】
「スペードの女王」
09/6/19(金)〜09/6/21(日) NHKホール (東京都)
「エフゲニー・オネーギン」
09/6/24(水)〜09/6/26(金) 東京文化会館大ホール (東京都)

いずれも一般発売は11/16(日)10:00〜から!
座席選択ができます!

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2008-11-14 11:35 この記事だけ表示