TOKYO FM 夢の第九コンサート2011 指揮者:西本智実にインタビュー[公演情報]

写真:塩澤秀樹

 西本智実の指揮する「夢の第九コンサート」が今年も開催される。一般から合唱を募り、西本智実とともに数千人で「第九」を歌い上げる感動のコンサート。昨年は日本武道館でひらかれたが、今年は東京国際フォーラムAが会場となる。


「『第九』の合唱は一つの団体や複数の団体でやることが多いですよね。このコンサートの合唱は個人参加なのです。もちろん、ラジオを通じてレクチャーしたり、前もってリハーサルはします。それでも、合唱の全員と合わせるのが、本番当日のリハーサルと本番だけなので、指揮者としては恐怖感もあるのですが、昨年、このコンサートをさせてもらって、各自が作品に対して熱心に取り組んだ結果、ちょっとありえないような統一感やハーモニーの美しさが生まれ、まさかと思うようなクオリティの高い演奏になりました。
 もちろん、日本武道館という広い空間には時差があるのですが、大きなズレもほとんどありませんでした。合唱のみなさんの集中力というか、意気込み、参加意識の高さを感じました。
 日本武道館では、まわり360度、合唱でしょう。それをまとめていくにはエネルギーの消耗がすさまじかったです。2日続けては指揮できませんね(笑)」

昨年の成功を受けて、今年のコンサートはどうなるのだろう?
 「今年は大きな震災があり、去年とは違った意識が参加される方の中にも生まれると思います。シラーの詩のとらえ方や認識が変わってくるはずです。つまり、レクチャーで説明されてもなかなか心に入ってこなかった詩の、行間も含めて、一つの単語、文などの感じ方が変わってくると思います」
 人類愛を歌い上げるシラーの詩は、今のような困難な時代にこそ、深く共感することができるのであろう。

それでは、西本にとって、ベートーヴェンの音楽の素晴らしさはどこにあるのだろうか?
 「『第九』は、ベートーヴェンの集大成です。私は、ベートーヴェンのピアノ・ソナタが好きで、彼の交響曲を指揮するときも、形式などでピアノ・ソナタを意識します。『第九』には、古典的な様式美やすべての形式を超越した素晴らしさをいつも感じます。古典的な様式美を超越して、新しい様式が生まれているのを感じるのです。私はもともと作曲出身ですから、作品のフォーム(形式)に一番興味があります。『第九』は、そういうフォームすら外れて、越えているのです。オーケストレーション(管弦楽法)もそうです」

数千人もの大合唱で歌う場合、最も難しいのはタイミングを合わせることに違いない。合唱に参加する人はどうすればよいのだろうか?
 「去年、予想していたよりも各自のレベルが高かったので、今年は、心配する箇所を変えようと思います。昨年の、何千人もの人が遅れずに出られるかというほとんど基礎的な、初歩的な心配は無駄でした。去年に引き続き今年も来てくださる方にも、また新しい方にも、もう少し高いレベルを要求して、アプローチして、みんなで今年のベストの『第九』を歌い上げられればよいと思っています。
 合唱のみなさんにゲネ・プロ(当日のリハーサル)でお願いしたのは、『みなさんの本能を信じて歌ってほしい』ということでした。指揮を映す大きなモニターを使うと、それだけで合唱のタイミングは遅れ気味になります。また、音楽の難しいところで、周りを聴いて歌うと遅れてしまいます。それが何千にも合わさるとたいへんな事故になりかねません。そういうときに、映像の指揮の何秒前に歌うとか決めるのも本当に危険なのです。そうではなく、本能にしたがって歌ってください」
 何かに頼るのではなく、本能にしたがうことこそが合唱の一体感を生むのであろう。
 西本は、この「夢の第九コンサート2011」を鑑賞するコンサートというよりも、参加するコンサートだという。
 「まず、参加していただきたい。とにかく参加するコンサートです。日本の方はまじめで、『やったことがない』とか、『声が出ない』とか言われますが、是非、やってみてほしい。全部歌えなくても、数小節だけでもいいんです。私も指揮するよりも歌いたいくらいです(笑)。歌う喜びには感動的な瞬間があります」

この「夢の第九コンサート」で締め括る2011年。西本智実は、今年も、ヨーロッパやアメリカに飛ぶ。
 「5月は、イタリアに行き、2009年に大地震の起きたラクイラで震災復興コンサートを指揮します。日本の震災復興の意味も込めて、ラヴェルの『ボレロ』やイタリア国歌のほか、日本国歌も取り上げます。その後、ロシアに行き、ロシア国立交響楽団で首席客演指揮者就任定期演奏会を指揮してきます。そして彼らと日本に来ます。そのほか、クロアチアの音楽祭にも参加します。11月に、昨年に引き続きアメリカに行って、ウェストチェスター交響楽団を指揮します。パールマンが音楽監督を務めているオーケストラです。去年、新天地のつもりでアメリカに行って、指揮したのですが、アメリカにはロシア系のプレーヤーが多く、むしろ、懐かしい感じがしました。」
 首席客演指揮者を務めるロシア国立交響楽団とは、今年2月にチャイコフスキーの交響曲第5番を録音し、最近、そのCDがリリースされた。5月後半に彼らとの日本ツアーが予定されていて、そこでもチャイコフスキーの交響曲第5番を振る。指揮者として学び、研鑽を積んだロシアに戻り、ロシアを代表するオーケストラのポストに就いたことは、彼女を一層進化させるに違いない。

 また今年4月に、西本は、新しくオープンしたオリンパスホール八王子(新八王子市民会館)のエグゼクティブ・プロデューサーに就任した。5月4日に、新日本フィルを相手に開館記念コンサートを指揮したばかり。
 「オペラや舞台を制作していきたいです。オペラはコストがかかりますが、それを省く方法は?こういう可能性は?という方向でこの秋に『トスカ』を上演する予定でしたが、震災の影響で今年度は延期になりましたが、オペラ制作はゆっくりと温めて作っていきます」
 今年、ロシアだけでなく、日本でも責任あるポストに就いた西本智実は、ますます充実した指揮活動を続けていくことだろう。大いに期待したい。


(取材・文/山田治生)





2011-05-23 19:07 この記事だけ表示
 
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