『パゴダの王子』、新国立劇場バレエ団芸術監督デヴィッド・ビントレー氏独占インタビュー[インタビュー]

 新国立劇場バレエ団芸術監督、デヴィッド・ビントレー氏に、新作『パゴダの王子』の作品誕生の背景や新国立劇場バレエ団での創作活動について、お話を伺った。穏やかでユーモア溢れる英国紳士と永遠の少年が共存するような印象だった。


――先ほどのリハーサルで、ビントレーさんが振付されるご様子を拝見しました。タンゴの動きが難しそうですね。

 そんなことはないです。今日は、ゆっくりと確認をしました。自分ができていると思っていて、できていない部分が数箇所あったので、そのままにして、日本を発ちたくなかったのです。(ビントレー氏は、このインタビューの二日後に英国に帰国)


――創作方法について伺いたいのですが、最初に全体的な振付を考えているのですか。もしくは、稽古場で動きを生み出すのですか。

 稽古場です。事前に全ての振付はしません。ただ、構想というか、どのシーンで、どのような物語が語られるか、ということは頭の中に明確にあります。例えば、先ほどのタンゴのシーンは、大正時代の設定です。外圧が押し寄せる時代に、皇帝は富士山の上から、その様子を苦々しく見ている。財力が目当ての女王エピーヌは、外敵を自ら招きいれ、宮廷は秩序を失い、退廃してゆく。そこに救世主としてさくら姫が現れるという筋です。史実に忠実でもなく、まじめなものではありません。ファンタジーです。なにしろ、江戸時代から大正時代まで、同じ人物が演じるのですからね。


――新作『パゴダの王子』が生まれた背景を教えていただけますか。

 ブリテンの音楽は何十年も前から知っていて、具体的なきっかけの一つは、いろいろな日本での公演を見る中で、日本の観客が、ディベルティスマン(余興的にたくさんの踊りが、次々と登場する形式)を好むことに気付きました。まさに、『パゴダの王子』第二幕は、この形式にぴったりで、雲、星、海の創造物、タツノオトシゴなどいろんなキャラクターが出てきます。それを、日本を舞台にできたらいいと思ったのです。もう一つのきっかけは、歌川国芳の浮世絵や日本の様々な美術の画集です。そこに、私がバレエ作品として描きたかったものがすべてあり、長年温めていた構想が実現しました。 ちょうど、日本初演の今年は国芳の没後150年で、2013年はブリテンの生誕100年で、本当に偶然ですね。


――ビントレーさんにとって、歌川国芳の浮世絵の魅力とは何ですか。

 江戸末期とはいえ、現代につながる、驚くほど時代の先端を行く、近代的な絵画であるということです。例えば、蛙がタバコを吸っているような、動物を擬人化した豊かな表現力。奇奇怪怪なユーモアのある世界、自然の描き方に、果てしない想像力を感じ、独特の美意識があります。彼の絵画には、最初から明確なプランがあり、「このように描く」という決然とした線を感じます。美術のレイ・スミスが、国芳の世界を舞台上にどのように抽象化して表現するのか、そして、色鮮やかな衣装とどのように融合するか楽しみです。


――日本を舞台にした新作『パゴダの王子』ということで、今回はお能の動きを取り入れましたね。ビントレーさんは、「お能とバレエは対極にある」と仰っていましたが、何か共通点はありませんでしたか?

 あまりないようですね。まず、動きのスピードが違います。そして、お能は即興性が高いと思う。バレエの場合、音楽を5小節増やすことはできないですよね。お能だと、演者によってお得意の場面では音を伸ばすとかできますね。バレエに即興はないです。私がやらせようと思っても、ダンサーが嫌がります。


――これからの新国立劇場バレエ団や日本のバレエに期待することは何ですか。

 ダンサーは引っ張る人次第です。私はダンサー達の新しい挑戦として、『パゴダの王子』を創りました。様々なスタイルの作品を経験することが、今のダンサー達の理想に近いと思います。日本のバレエには、ディアギレフ以降の流れが抜けています。英国では、クラシックとコンテンポラリーの距離が近く、時間の繋がりがある。批判的な意味はなく、過去(革命前のロシアの古典)にしがみつくことはないのです。恩師ニネット・ド・ヴァロワは、ディアギレフのバレエ団出身で、彼の「音楽、美術、物語、舞踊が融合した総合芸術としてのバレエ」という考え方を受け継ぎ、英国バレエの基礎を築きました。私にとっても、ディアギレフの世界は、12歳の頃から慣れ親しんだかけがえのないものです。ですから、新国立劇場でも『火の鳥』(振付:フォーキン、音楽:ストラヴィンスキー)を上演しました。ダンサーも観客も、歴史的な流れの中で育ってゆくのです。

(文/池田愛子)
(写真/渡辺マコト)

【関連記事】
世界初演の待望の新作、ビントレー版『パゴダの王子』リハーサル・レポート

【PR】

『没後150年 歌川国芳展』
世界を驚かせた浮世絵の奇才。
六本木ヒルズに参上!

<概要>
2011/12/17(土)〜
2012/2/12(日)
森アーツセンターギャラリー

<発売日程>
10/3(月)より早割りペア券
11/1(火)よりe+限定で夜間ペア券発売開始!

≫チケット申し込みはこちら




2011-09-29 14:23 この記事だけ表示
 
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。