東芝グランドコンサート 2012 フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮 南西ドイツ放送交響楽団バーデン=バーデン&フライブルク 神尾真由子(ヴァイオリン)、萩原麻未(ピアノ)[インタビュー]

左から萩原麻未(ピアノ)、神尾 真由子(ヴァイオリン)

 東芝グループの芸術文化支援活動の一環として毎年、世界各国の著名な指揮者・オーケストラを招聘、世界を舞台に活躍している豪華なソリストを招き、 公演を提供してきた『東芝グランドコンサート』。2012年は、さらなる活躍が期待されている話題の指揮者フランソワ=グザヴィエ・ロト率いる南西ドイツ放 送交響楽団バーデン=バーデン&フライブルク(以下、南西ドイツ放送交響楽団)を招いての公演。ソリストにはヴァイオリニストの神尾真由子さん、ピアニ ストの萩原麻未さんを迎える。

 なかでも話題と注目を集めるのが、昨 年、ジュネーヴ国際音楽コンクール〈ピアノ部門〉で日本人初の第1位獲得という快挙を成し遂げたピアニスト、萩原麻未さん。ジュネーヴ国際音楽コンクール はこれまで、ミケランジェリ、グルダ、アルゲリッチ等、錚々たるピアニストを輩出しながらも、あの現代最高のピアニストの一人、マウリツィオ・ポリーニ でさえも第1位を得ることはできなかったほど(2年連続第2位)、また第1位を出さないことで有名な厳しいコンクール。萩原さんの第1位受賞は日本人初として だけでなく、〈ピアノ部門〉では実に8年ぶりのことだった。
 「優勝どころか、まさかファイナルに残れるとは思っていなかった」、という萩原さん。ファイナルに進み、優勝したことで今まで見えなかった世界が見え てきたり、出会えなかった人たちと出会えたのはとても貴重な体験だった。

 「スイス・ロマンド管弦楽団と共演させていただけるというだけで嬉しかったのですが、あのときは、ああ終わっちゃった、という悲しい気持ちがすごく強 かったですね。自分の演奏の前に〈オーボエ部門〉があり、そこで初めて彼らの演奏を聴いたんです。すごく感動して、自分もあのなかで弾けるんだ、という のがすごく嬉しかった。もちろんすごく緊張していたんですが、怖いとか落選したらどうしようとかいう気持ちはまったくなく、それよりも、スイス・ロマン ド管弦楽団と同じ舞台に立てるという嬉しさの方が勝っていました」

 一番好きな作曲家はシューマンだというが、ファイナルで選んだ作品は『東芝グランドコンサート』でも演奏するラヴェルのピアノ協奏曲ト長調。ジャズの 要素を盛り込んだ陽気な第1,3楽章と、叙情的で美しい第2楽章で有名な名曲だ。フランスものを積極的に取り入れている彼女にとって、もちろんラヴェルも好 きな作曲家。「自分が得意かどうかというよりも、聴いてくださった方がいい作品だなあと思ってくださる方が嬉しい」という想いからラヴェルを選んだ。
 コンクールでの彼女の演奏を振りかえると、特に第2楽章が印象に残る。若手のピアニストとは思えないほど成熟した、朗々とした歌心に充ち満ちた演奏だっ た。
 「ファイナルの前は眠られないほど緊張していました。でも、オケの方と話をする機会があり、第2楽章の歌い方はソロを吹かれるイングリッシュ・ホルンの 方から影響を受けたところが大きいかもしれません」
 パリを拠点に活動を続け、パリ国立高等音楽院(コンセルヴァトワール)に在学中の萩原さんは、すでにマスタークラスを終え、現在は室内楽専攻の2年生だ 。室内楽を通じての他者との演奏体験が彼女の“現在”を生み出しているに違いない。
 「室内楽は楽しいです。今は、一人で弾くことよりもむしろ、誰かと一緒に音楽を創ることの方に興味があります。すごく心通ったところがあった時に、終 わったあとみんなでその喜びを分かち合えるというのは、何者にも代え難いです」


 ラヴェルのピアノ協奏曲をオーケス トラと共演したのはコンクールが初めてだった。今年になり、4月にパリでの東日本大震災のチャリティーコンサート、そして、7月には故郷広島での広島交響 楽団との共演でも披露した。
 「コンクールで共演させていただいたスイス・ロマンド管弦楽団の演奏に刺激されて、終わった後、もっと弾きたい、もう一度弾きたい、という気持ちがす ごく強くなり、今は何度弾いてもまた弾きたくなります。ラヴェルを弾いていると、オーケストラの個々の楽器と対話しながら、オケの一員として演奏してい るような気持ちになるんです。今度は『東芝グランドコンサート』で何回か弾かせていただくのですごく嬉しいです」

 これまで何度かラヴェルを弾き、その都度生まれてくる音楽にも変化が現れる。指揮者からも多くを学んだ。
 「オーケストラと共演するということは、自分以外の誰かと一緒に演奏するわけで、自分がどう演奏したいというよりも、どう演奏すればより音楽に馴染め るか、いい演奏になるかを考えながら演奏しています。7月に指揮していただいた飯森範親さんからは、学ぶことが多かったです。飯森さんがオケの方に指示さ れるのを聞いているとすごく勉強になりました。そうしたなかで私も変わって行ったところもありました」

 一日に5、6時間ほど練習するそうだが、気持ちが向かないこともある。そんなときは、ピアノ以外の事で気分転換することを大切にしている。よく散歩する が、そこから学ぶことも多い。
 「学校の周りを散歩したり、美術館に行くことが多いですね。可能な限りそうした時間は作るようにしています。街がほんとうに綺麗なので、散歩している うちにあのフレーズはこう・・・と、音楽のイメージが湧いてくるんです」


 好きな演奏家や影響を受けた演奏家は 多いが、目標にしている演奏家はいない。そう話す彼女の口調には、すでに確固たる自信がみなぎっている。
 「自分の道は自分でしか創っていけないと思うんです。もちろん尊敬する演奏家はたくさんいて、日々学ぶことばかりです。その他にも、モネやゴッホの絵 からも触発されたりします。
 いろんな経験をし、いろんなものに触れ、自分から離れているところにあるものから影響を受ける方が、自分の考えがはっきりとしてくることが多いように 思います」

 『東芝グランドコンサート』では、フランソワ=グザヴィエ・ロトさん、南西ドイツ放送交響楽団ともに初の共演となる。
 「ロトさんにはすでにお会いしました。すごくフレンドリーな方でした。マエストロにもラヴェルを聴いていただいたのですが、ぜひ多くの日本のみなさん にもラヴェルを生で聴いてもらいたいというマエストロの意向もあり、ラヴェルを弾かせていただくことになりました」

 ドイツのオーケストラのなかでも近現代の作品を得意とする南西ドイツ放送交響楽団。スイス・ロマンド管弦楽団とはまた違った現代的かつドイツ特有の響 きに包まれ、萩原さんのラヴェルがどう化学変化するだろうか。
 「何かを演奏するときに、自分がこう弾くんだというよりも、むしろ、聴衆のみなさんから聴き終えた後に、こんなにいい曲だったんだ!!と言っていただ けるのが一番嬉しいんですね。ラヴェルのピアノ協奏曲をお好きな方も多く、みなさんそれぞれの作品への想いがあると思いますので、私自身がそこまでどれ だけ近づけるか。期待を裏切らない演奏で応えたいです」

 また、ヴァイオリニストの神尾真由子さんはシベリウスで共演する。聴衆を圧倒する音色が特徴的な彼女のヴァイオリンからは、渋く劇的なシベリウスを聴 けることだろう。
 他に、マーラーの交響曲第5番、ベートーヴェンの交響曲第3番〈英雄〉などが予定されている。
*公演日程により、出演者、プログラムなどが変わります。

(取材・文:唯野正彦)



2011-10-03 18:30 この記事だけ表示
 
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。