感情豊かに奏でられる『エフゲニ・ボジャノフ(p)』の魅力に迫る![公演情報]

 濃厚に、感情豊かに奏でられるピアノ。一度知るとその刺激が味わいたくて、また聴きたくなってしまう。エフゲニ・ボジャノフのピアノには、そんな魔性の魅力がある。豊かな表情の変化とともに大きく身体を揺らし、大砲のようなパワフルなフォルテを聴かせたかと思うと、消え入りそうでありながら遠くまで響くピアニッシモを奏でる。「これが自分の音楽だ!」と言わんばかりの、自信に満ち溢れた表現だ。聴いていると、まるでどこかに連れて行かれるような、不思議な陶酔が訪れる。


Photo Kiyotane Hayashi

 昨年秋には、佐渡裕指揮ベルリンドイツ響のソリストに抜擢され、全国ツアーを行った。ボジャノフは2009年辻井伸行が優勝し話題となったヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールでファイナリストとなっているが、佐渡裕はこの本選の映像を観て、ボジャノフの強烈な個性と表現力、“悪魔的な音が憑く魅力”に驚いたのだという。2011年1月の兵庫県立文化センター管ツアーでの共演に続き2度目となった秋のツアーでは、ピアノ協奏曲のあと、聴衆がアンコールを求めて熱狂した。終演後のサイン会では、日本でまだ広く名の知られていなかった若手であるにもかかわらず、ボジャノフの前に佐渡裕と並ぶ長蛇の列ができたほどである。

 一方、その強い個性ゆえに、一部のクラシック愛好家にはどうしても彼の音楽を受け入れられないという方がいるということも、正直にお伝えしておこう。
 現在ピアノファンの間でにわかに話題を集めるボジャノフだが、そのきっかけとなったのが2010年ポーランドで行われたショパン国際ピアノコンクールだ。審査員の誰もがその天賦の才を認める一方、ショパンの祖国で行われるこのコンクールでは「正統な」ショパン弾きであるか否かも評価の争点となり、4位という結果(一般的には充分すばらしいものだが)になったのだ。それが「すばらしい音楽」だと多くの審査員が認めていながらである。
 実のところ、コンクールにおけるボジャノフの評価については、異彩を放つ才能とする審査員と、強烈すぎる個性が受け入れられない審査員とで意見が割れることが多い。その一方で、客席では聴衆が大いに熱狂するという現象が起きるのだ。
 クラシックの世界には、連綿と受け継がれてきた伝統や音楽解釈の基礎というものがある。その規範を踏襲したうえで殻を破るには、高い技術、音楽の説得力、挑戦する強い自信がなくてはならない。ボジャノフの音楽は、まさにそうした壁に挑戦しているようにも見える。しかし実際のところ、本人はただひたすらに大好きな音楽に没頭しているだけであるから不思議だ。

 百面相のように変化する美音と、心にグイグイと迫る強烈な音楽表現。最初はその威圧感に呆然とするかもしれない。ついてゆけないと感じるかもしれないし、聴き続けるうち、心の奥がざわめく興奮にとり憑かれてしまうかもしれない。
 ボジャノフの音楽に身を委ねたとき、あなたの心にどんな感情が起きるか。ぜひ実際にホールで確かめてみてほしい。

(文/高坂はる香)


■『エフゲニ・ボジャノフ(p)』の相関図をご紹介!



公演概要

エフゲニ・ボジャノフ(p)

▼Aプログラム
【日程】
5/30(水) 札幌コンサートホールKitara大ホール(北海道)
6/2(土) 兵庫県立芸術文化センター KOBELC大ホール(兵庫県)
6/7(木) りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館 コンサートホール(新潟県)
6/8(金) サントリーホール(東京都)
【予定曲目】
ショパン:舟歌 Op.60
ショパン:ピアノ・ソナタ第3番 Op.58
シューベルト:12のドイツ舞曲(レントラー) D.790
ドビュッシー:レントより遅く(ワルツ)
ドビュッシー:喜びの島
スクリャービン:ワルツ Op.38
リスト:メフィスト・ワルツ第1番 S.514

▼Bプログラム
【日程】
6/1(金) 愛知県芸術劇場コンサートホール(愛知県)
6/3(日) びわ湖ホール 大ホール(滋賀県)
6/9(土) 彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール(埼玉県)
【予定曲目】
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第18番 Op.31-3
ショパン:3つのマズルカ Op30-4, Op.41-1, Op.50-3
ショパン:3つのワルツ Op.63-4, Op.42, Op.18(華麗なる大円舞曲)
リスト:エステ荘の噴水
リスト:ダンテを読んで―ソナタ風幻想曲
リスト:オーベルマンの谷
リスト:歌劇「ファウスト」からのワルツ




2012-05-25 13:31 この記事だけ表示
 
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