澄みわたる魔法の音
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、来月来日公演
2013年3月15日 朝日新聞紙面より[公演情報]

 歴代名指揮者のもとで洗練を積み重ねてきたドイツの名門、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団が4月に来日する。高い評価を得ているブルックナーの交響曲をはじめ、えりすぐりのプログラムを名匠ロリン・マゼールの指揮で届ける。来日を前に、マゼールがミュンヘン・フィルの魅力を語った。かつてミュンヘンで学んだ音楽学者の岡田暁生さんにも、この楽団への思いを寄せてもらった


挑戦する若さ、再生する伝統
音楽監督ロリン・マゼール語る

 ロリン・マゼールがミュンヘン・フィルの音楽監督に就任したのは、昨年秋のこと。その前は、ニューヨーク・フィルハーモニックで音楽監督を務めていた。「要職を持つのはこれが最後」と思っていたが、ミュンヘン・フィルに客演し「信じられないほどの豊穣(ほうじょう)な響きとクオリティーの高さ」に心を動かされ、音楽監督へのオファーを迷わず受けたと語る。  この楽団の一番の魅力は「新しい何かを志し、挑戦を続ける若さ」だという。「どこに伝統があり、何が正しい音なのか、即座に理解し、自発的に解釈してゆく力がある。何より初共演の時から、私は楽員たちの謙虚さに感動を覚えていた。それは、この楽団のレベルの高さの証明でもある」

 前任のクリスティアン・ティーレマンは、ブルックナーやベートーベンを筆頭に、この楽団の本領であるドイツ音楽の彫琢(ちょうたく)に全力を挙げていた。そんな彼の後にマゼールを推した理由を、パウル・ミュラー総裁はこう語る。  「音楽監督として最も長く君臨したチェリビダッケも、我々にフランス音楽の響きの種を植えてくれた。ティーレマンへの感謝を礎に、新たな歴史を開拓するには、膨大なレパートリーを誇るマゼールの老練な力が必要だった」  ミュンヘン・フィルの十八番でもあるブルックナーを聴いていると、何かが地の底からわき上がってくるかのような、それでいて不思議な浮遊感で聴く者を包んでくれるような瞬間が、いつもどこかで訪れる。実はこれが、チェリビダッケが仕込んだ「魔法」なのだ。それぞれの奏者に、意識的に異なる幅のビブラートをかけさせることによって、他の楽団にはない音響のふくらみと微妙な色彩のあわいを醸し出すのである。

 マゼールは言う。「これまでの音楽監督の功績だと思いますが、個々の奏者の自主性が極めて高い。私は統率するというより、むしろ楽しませてもらっている。これは、オケと指揮者の理想的な関係性のひとつではないかと思う」  新たなレパートリー開拓という使命については、「新しいもの、慣れないものに挑戦させ、楽員たちを揺さぶることも音楽監督の仕事。どうやって発奮させることができるかをいつも考えながら、プログラムを練っています」。  ミュンヘン・フィルの歴史は、前身を含むと、優に100年を超える。かのフルトベングラーが楽壇デビューを果たしたのも、この楽団でだった。そうした伝統の継承と更新も、音楽監督の重要な責務となる。  「伝統は、建築物でいえば土台のようなもの。時間が経てば強くなるかといえば、そうではない。維持のためにはメンテナンスも建て替えも必要。日々新しく生まれ変わらせてこその伝統なのです」  一方で、伝統を命あるものにするためには、ともに歩んでくれる聴衆の存在が重要、とも。  「いまは映像やネットなど、いろんな芸術の楽しみ方があるけれど、伝統は生の演奏がある場所にのみ息づく。これだけは、どんな優れた録音にも代替できません。演奏の現場でのみ、聴衆は伝統の継承に立ち会い、演奏家とともに伝統の担い手になれるのです」

(朝日新聞記者・吉田純子)

ブルックナーの伝説を再び
音楽学者・岡田暁生

 チェリビダッケ時代のミュンヘン・フィルを、留学中の1980年代後半に私はしょっちゅう聴くことが出来た。あの頃のミュンヘン・フィルのアンサンブルは空前絶後の域に達していたし、あまりにもその刷り込みが強烈だったせいで、私にとってのドイツ語圏ナンバーワンのオーケストラは、いまだにベルリン・フィルではなくミュンヘン・フィルであり続けている。最近もマゼールが音楽監督に就任したばかりの昨年の秋、デンマークのダウスゴーという指揮者で素晴らしい演奏会を聴くことが出来、このオーケストラの実力がまったく当時と変わらないことを再確認できた。

 アルプスの山麓(さんろく)にあることとも関係あるのだろう、ミュンヘンの空は高く澄んでいる。冬でも高らかに晴れ渡る日はまれではない。北ドイツのどんより低く曇った鉛色の空の対極だ。そして、ミュンヘン・フィルの響きもまたとても明るい。それはまさにバイエルンの州旗である、白と水色の格子の柄そのままだ。だからというわけでもなかろうが、モダンものをやらせてもミュンヘン・フィルは、いつも素晴らしくうまい。鈍重なところがない。こうした機能主義的なシャープさもあって、昔からこのオーケストラはマゼールと相性がよかった。かつてミュンヘンで聴いたマーラーの第8交響曲など、一晩中寝られないような名演奏だったのを、よく覚えている。

 しかしながらミュンヘン・フィルのレパートリーの十八番といえば、やはりブルックナーだろう。創設期に首席指揮者をつとめたフェルディナント・レーヴェはブルックナーの弟子であり、この伝統はクナッパーツブッシュ(しばしば客演した)、さらにはチェリビダッケによって、ほとんど一つの伝説にまで高められた。ドイツで「ブルックナー・オーケストラ」とまで呼ぶことが出来るのは、このミュンヘン・フィル以外にはない。そして今回の公演でマゼールがブルックナーとセットにしたのはワーグナー。これまたミュンヘン人にとっては「わが街」のレパートリーであることは言うまでもない。


公演概要

【名古屋公演】スーパークラシックコンサート2012-2013

2013/4/12(金) 愛知県芸術劇場コンサートホール
<出演>
五嶋龍(ヴァイオリン)
<曲目>
レスピーギ:交響詩「ローマの噴水」
パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調
(ヴァイオリン独奏:五嶋龍)
ベートーヴェン:交響曲第7番イ長調 作品92

【東京公演】ロリン・マゼール指揮 日本公演2013 東京公演

2013/4/13(土)〜4/18(木)サントリーホール 大ホール
<出演>
五嶋龍(ヴァイオリン)※4/17のみ
<曲目>
2013/4/13(土)
ベートーヴェン:序曲「コリオラン」
ベートーヴェン:交響曲第4番変ロ長調 作品60
ベートーヴェン:交響曲第7番イ長調 作品92

2013/4/17(水)
チャイコフスキー:幻想序曲「ロメオとジュリエット」
パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調
(ヴァイオリン独奏:五嶋龍)
ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」

2013/4/18(木)
ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲
〜ヴェヌスベルクの音楽(パリ版)
楽劇「トリスタンとイゾルデより 前奏曲と愛の死
ブルックナー:交響曲第3番二短調(1889年第3稿 ノーヴァク版)

【札幌公演】ロリン・マゼール指揮

2013/4/14(日) 札幌コンサートホールKitara大ホール
<出演>
五嶋龍(ヴァイオリン)
<曲目>
レスピーギ:交響詩「ローマの噴水」
パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調
(ヴァイオリン独奏:五嶋龍)
ベートーヴェン:交響曲第7番イ長調 作品92

【大阪公演】第51回大阪国際フェスティバル

2013/4/16(火) フェスティバルホール
<曲目>
ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲
〜ヴェヌスベルクの音楽(パリ版)
楽劇「トリスタンとイゾルデより 前奏曲と愛の死
ブルックナー:交響曲第3番二短調(1889年第3稿 ノーヴァク版)

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2013-03-27 18:07 この記事だけ表示
 
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