現代を代表するピアニスト「マリア・ジョアン・ピリス」来日、注目の公演を紹介[公演情報]

 ポルトガル出身のマリア・ジョアン・ピリスは現代を代表するピアニストの一人。小柄な彼女は、超絶技巧を誇示するのではなく、その真摯で思慮深く飾らない演奏によって聴衆を魅了し続けてきた。教育活動にも熱心に取り組む彼女は、現在、ベルギーのエリーザベト王妃音楽院で後進の指導にあたり、音楽院とともに「パルティトゥーラ・プロジェクト」に取り組んでいる。

 才能ある若手ピアニストを育て、コンサートで彼らと演奏を共有するとともに、彼らを世に紹介する。コンクールや競争とは一線を画する独自の教育的なプロジェクトで、ロンドンのウィグモア・ホールをはじめヨーロッパ各地で公演を行ってきたが、日本では今回が初めての演奏となる。

パルティトゥーラ・プロジェクト
≪ベートーヴェン/ピアノ協奏曲全曲演奏会≫
≪ピリス&将来を期待される若手ピアニストとのデュオ・リサイタル≫

 すみだトリフォニーホールでの「パルティトゥーラ・プロジェクト」では、ピリスは、エリーザベト王妃音楽院で彼女に師事する3人の気鋭のピアニストとともに、ベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲を演奏する。その3人とはジュリアン・リベール(1987年、ベルギー生まれ)、ナタナエル・グーアン(1988年、フランス生まれ)、小林海都(1995年、横浜生まれ)である。10月27日は第1番(リベール)、第2番(グーアン)、第3番(ピリス)、29日は第4番(ピリス)、第5番「皇帝」(小林)が取り上げられる。指揮はピリスの盟友オーギュスタン・デュメイ。彼は29日に2曲の「ロマンス」でヴァイオリン演奏も披露する予定だ。管弦楽は新日本フィル。

名手アントニオ・メネセスとのデュオ・リサイタル

 さらに11月7日には、ピリスと、チェロの名手アントニオ・メネセスとのデュオ・リサイタルも開催される。ブラジル出身のメネセスは、1982年のチャイコフスキー・コンクールで優勝し、巨匠カラヤンにもその才能を認められた人物である。ボザール・トリオへの参加など、室内楽にも精通しており日本では2013年に続く共演となる。円熟の二人の奏でるアンサンブルが楽しみだ。また、ピリスはこのコンサートでベートーヴェンの最後のピアノ・ソナタである第32番も弾く予定。

 「パルティトゥーラ・プロジェクト」での協奏曲第3番と第4番も合わせて、ピリスのベートーヴェン演奏の集大成を聴く機会となろう。

[取材・文=山田治生]

パルティトゥーラとは

 音楽について私たちが一つ言えることは、私たちがどれだけ音楽を理解し、音楽を教えることに全力を注いでも、一つだけ教えることが出来ないことがあるという事です。それは“GRACE”、つまり“神の恵み”“慈しみ”です。言い換えれば、音楽に真の価値をもたらす予期せぬ “奇跡”とも言えます。この人智を超えた予期せぬものこそが、作曲家を作曲に駆り立てるのです。また、音楽家が全身全霊をかけ技術を修練し、さらなる深みを求めるのも、この“GRACE”“神の恵み””奇跡“が大きな原動力となっているのです。また、聴衆をコンサートという特別な時間へ誘うのも、“GRACE”なのです。 “GRACE”“神の恵み”“奇跡”を成し得るには、美しさだけではなく、倫理も重要な要素なのです。あらゆる芸術と同じように、音楽も人間を形作る神秘の一部なのです。

 多くの学校や音楽院では、音楽を分析し指導をすることに終始しており、“GRACE”とは本質的に異なります。キャリア形成のために課せられる制約は決して好ましいものではありません。試験やコンクールでは他者と競い、自己を称賛する気持ちが原動力となります。この“自己を称賛する気持ち”は、繊細でなかなか到達することが出来ない“GRACE”という次元から演奏家を遠ざけてしまうリスクとなりうるのです。

 この問題に一石を投じるべく、マリア・ジョアン・ピリスはパルティトゥーラ・プロジェクトを立ち上げました。プロジェクトの目的は、世代が異なる音楽家同士が互いに演奏を聴きあう機会を設け、“GRACE”に到達すべく望ましい環境を作ることです。著名な音楽家に若い演奏家を指導してもらい、そして、ステージで一緒に演奏をしてもらうのです。聴衆が熱心に耳を傾けるコンサートという場で、異なる世代の演奏家が各々の演奏を融合させ、時空を超越するその瞬間こそが、この奇跡“GRACE”が成就されるのです。

 「スター・システム」の悪影響を排し、次世代の可能性を発掘し、音楽の持つ新たな側面を聴衆に明らかにし、コンサートという場が持つ意味意義を深めるという高い期待と目標を叶える為、パルティトゥーラ・プロジェクトとミュージック・シャペルは、他に類を見ない一歩を踏み出します。この挑戦は音楽学校という枠にとどまらず、作曲家、演奏家そして、聴衆にとってのチャレンジです。ややもすると聴き逃してしまいそうな音の中に、実は音楽のすべての意味、意義が詰まっているということに気が付こうとしている、そういう瞬間とも言うことが出来るでしょう。

公演概要

■パルティトゥーラ・プロジェクト
 ≪ベートーヴェン/ピアノ協奏曲全曲演奏会≫

<公演日程・会場>
2015/10/27(火)、10/29(木) すみだトリフォニーホール 大ホール (東京都)

<出演>
マリア・ジョアン・ピリス、ジュリアン・リベール、ナタナエル・グーアン[ピアノ]、
オーギュスタン・デュメイ[指揮・ヴァイオリン]
新日本フィルハーモニー交響楽団[管弦楽]

<曲目・演目>
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第1番[リベール]
        ピアノ協奏曲第2番[グーアン]
        ピアノ協奏曲第3番[ピリス]

■パルティトゥーラ・プロジェクト
 ≪ピリス&将来を期待される若手ピアニストとのデュオ・リサイタル≫

<公演日程・会場>
2015/11/10(火) ザ・ハーモニーホール (長野県)※
2015/11/12(木) ヤマハホール (東京都)※
2015/11/14(土) 八ヶ岳高原音楽堂 (長野県)※
2015/11/15(日) 彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール (埼玉県)
※e+での扱いなし。

<出演>
マリア・ジョアン・ピリス
ジュリアン・リベール [11/10(火)]
小林海都 [11/12(木)、11/14(土)]
ナタナエル・グーアン [11/15(日)]

<曲目・演目>
シューベルト: アレグロ イ短調 「人生の嵐」 Op. 144, D. 947 (4 手)
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31 番 変イ長調 Op. 110 (ピリス)
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 Op. 109 (リベール)
ベートーヴェン:ピアノ・ソナ第12番 変イ長調 Op. 26 (小林)
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第21番 ハ長調 Op. 53「ヴァルトシュタイン」(グーアン)
シューベルト: 幻想曲 へ短調 Op. 103, D. 940 (4 手)

■≪マリア・ジョアン・ピリス(p)&アントニオ・メネセス(vc)≫

<公演日程・会場>
2015/11/1(日) 横浜みなとみらいホール 大ホール (神奈川県)
2015/11/3(火・祝) 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール (兵庫県)
2015/11/4(水) 札幌コンサートホールKitara大ホール (北海道)
2015/11/5(木) 愛知県芸術劇場コンサートホール (愛知県)
2015/11/7(土) すみだトリフォニーホール 大ホール (東京都)

<出演>
ピアノ:マリア・ジョアン・ピリス
チェロ:アントニオ・メネセス

<曲目・演目>
ベートーヴェン:ピアノとチェロのためのソナタ 第2番 ト短調 Op.5-2
ベートーヴェン:ピアノソナタ 第32番 ハ短調 Op.111
J. S. バッハ:無伴奏チェロ組曲 第2番 ニ短調 BWV.1008
ベートーヴェン:ピアノとチェロのためのソナタ 第3番 イ長調 Op.69



マリア・ジョアン・ピリス(ピアノ)/アントニオ・メネセス(チェロ)
デュオ・リサイタル
<曲目変更のお知らせとお詫び>

公演まであと1ヶ月を切りましたが、ピリスより「ベートーヴェンのピアノとチェロのためのソナタ第4番、第5番を第2番、第3番に変更したい」との強い希望が参りました。 9月中に一時体調を崩したためメネセスと十分にリハーサルが出来なかったようで、日本のお客様に対し不十分な形で演奏をお聴かせすることは出来ないと言うアーティストの良心から出た決断の様です。
主催者および共催者といたしましては、その決断を重く受け止め、お客様にはご迷惑をおかけ致しますが、アーティストの希望通り変更させていただきたく存じます。
全体のプログラムは下記の通りです。

ベートーヴェン:ピアノとチェロのためのソナタ 第2番 ト短調 Op.5-2
ベートーヴェン:ピアノソナタ 第32番 ハ短調 Op.111
J. S. バッハ:無伴奏チェロ組曲 第2番 ニ短調 BWV.1008
ベートーヴェン:ピアノとチェロのためのソナタ 第3番 イ長調 Op.69

以上、ご理解の程、よろしくお願い申し上げます。



主催:(株)ヒラサ・オフィス
共催:すみだトリフォニーホール


2015-10-21 13:16 この記事だけ表示