「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト」[公演情報]
クラシックに限らず音楽史上最大の天才作曲家がモーツァルトであるということに異論がある人は少ないであろう。世界で1番有名な音楽家もモーツァルトであると思われる。そして、数多くの名曲が現代に残り、クラシックファンでなくともモーツァルトの曲はたくさん知っているはずだ。たとえそれがモーツァルトの曲であると認識していなくても。
 では、モーツァルトはどこが天才で偉大であったのか?少し具体的に検証してみよう。まず彼は早熟の天才で、まさに神童であった。
 
5歳で作曲を始め、6歳にしてミュンヘンやウィーンへ演奏旅行に出かけて絶賛を浴びた。ピアノ(当時はクラヴィーア)も抜群に上手かった。記憶力も抜群で、14歳の時、ローマのシスティーナ礼拝堂で1度だけ聞いたヴァチカン門外不出の「ミゼレーレ」という10分ほどの曲を宿に帰ってから完璧に書き写したという。しかも最後は9声にもなるという難曲を。そして、父レオポルトが息子の才能を見抜き、英才教育を施し、幼少の頃からヨーロッパ中を演奏旅行に廻って、各地の音楽に直に触れさせたことも、彼の音楽人生には大変大きかった。
 彼の作品が非常に多岐に渡っていて、当時存在したほぼすべてのジャンルで作品を残していることも驚異的である。そして、35歳の生涯で700曲を超える作品を残しているが、すべてのジャンルで傑作と言われる作品を書いている。更には非常に作曲が速いことでも有名で、下書きをせず、頭の中にある音楽をそのまま楽譜に書き起こしたと言われている。
 もちろん後世の作曲家に残した影響も大きい。そして、どんな楽器の演奏家もモーツァルトの作品が基本となり、超絶技巧のテクニックなどはほとんど必要とされないものの、音楽の奥が深く、譜面を見ただけでは分からない難しさがあると言われる。
 そして、彼の作品の中でもっとも重要であると思われるのは、オペラ等の劇作品である。「フィガロの結婚」「コジ・ファン・トゥッテ」などのオペラ・ブッファ(喜歌劇)、「イドメネオ」「皇帝ティートの慈悲」などのオペラ・セリア(正歌劇)、「ドン・ジョヴァンニ」などのドランマ・ジョコーゾという悲劇的な要素を持った喜歌劇、「後宮からの逃走」「魔笛」などのジンクシュピール等、あらゆるジャンルで後世に残る傑作を書いた。いずれも現在、世界中のオペラハウスで重要なレパートリーになっている作品ばかりである。

 モーツァルトのオペラの中でも最高傑作と言われる「フィガロの結婚」。それぞれの登場人物がモーツァルトの音楽によって活き活きと描かれ、有名なアリアも数多いオペラ史上における金字塔的な作品である。この「フィガロの結婚」だが、注目の公演が2つあるので紹介しよう。
 まずは、サントリーホール・オペラのシリーズ。2008年から2010年まで3年かけてダ・ポンテ3部作を1作品ずつ公演するが、その第1弾として、「フィガロの結婚」が2008年3月に上演される。ダ・ポンテとは、18世紀から19世紀のイタリア人台本作家の名前で、「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「コジ・ファン・トゥッテ」というモーツァルトの傑作オペラの台本を書き、この3作品がダ・ポンテ3部作として残っている。 
 イタリア人演出家として今や大御所と呼ぶべき存在になったガブリエーレ・ラヴィアの演出、日本でもお馴染みニコラ・ルイゾッティの指揮は大いに期待できる。そして歌手陣に目を転じると、若手の実力派がずらりと並び、とても楽しみなキャスティングが組まれている。その中でも特に注目したいのがアルマヴィーヴァ伯爵役のオーストリア人バリトン、マルクス・ウェルバ。ここ2、3年にスターへの道を駆け上っている注目株である。長身のハンサムで、演技も抜群に上手く、そして素晴らしい美声と安定したテクニックを持っている。私もザルツブルク音楽祭、ミュンヘンのオペラフェスティヴァル、ミラノ・スカラ座等で何度も見ているが、その都度感心させられ、ぜひ日本に呼んで欲しいと思っていた歌手である。

もう1つはザルツブルク音楽祭の日本ツアーである。名実ともに世界一の音楽祭として有名なザルツブルク音楽祭であるが、ザルツブルクはモーツァルトの生地としても有名である。更にこの音楽祭を世界的なものに育て上げた20世紀の大指揮者、ヘルベルト・フォン・カラヤンが生まれたのもこのザルツブルクで、2008年はカラヤン生誕100周年に当たる。
そのザルツブルク音楽祭が2008年4月に初めて来日公演を行うことになった。演目は「フィガロの結婚」で、指揮は1983年生まれの超新星、ロビン・ティツィアーティ。今最も注目されている若手指揮者の1人であり、サイモン・ラトルの再来とも言われている。演出は、ドイツ人演出家のクラウス・グートで、この「フィガロの結婚」は、2006年モーツァルト生誕250周年という記念の年にザルツブルク音楽祭で最大の目玉として大好評を博した舞台。人間の深層心理を表し、階段を特徴的に使った舞台は、2007年の同音楽祭でも再演されたもので、絶対に見逃せない。歌手陣はヴェテランと若手を上手くミックスしたキャスティング。特に注目したいのが、フィガロ役の若手イタリア人バリトン、アレックス・エスポージトとケルニーノ役の若きチェコ人ソプラノ、マルティナ・ヤンコーヴァ。2人ともモーツァルト・オペラの第1人者としてヨーロッパの一流歌劇場で活躍をしている実力派である。

上月光(音楽評論家)


2007-11-05 13:24 この記事だけ表示
 
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。