深い深い《フィガロの結婚》作品の恐ろしく高いポテンシャルが最大限に引き出される予感![公演情報]
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 初演から220余年を経てなお、《フィガロの結婚》は世界中で上演され続け、この日本だけでも年に何十回も上演されている――とは、驚くべき事実ではないだろうか。その理由は、作品の親しみやすさにもあるだろうが、これだけ長い間、作品が生命力を失わずにいる最大の要因は、やはり作品が持つポテンシャルが恐ろしいまでに高いからだろう。

 フィガロとスザンナ、伯爵と夫人、バルトロとマルチェッリーナ、ケルビーノとバルバリーナ――。ある1日の物語の中で、彼らは通り一遍でない等身大の喜怒哀楽を抱えた人間として、活き活きと描かれている。そして活きた人間であればこそ、彼らの関係には、微妙なねじれも生じる。フランス革命前夜ならではの、階級間のねじれ、そして、いつの時代にも男と女がいれば生じる、ねじれた男女関係。さらには男装女装といった性のねじれまでも。

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 もちろん、モーツァルトの音楽は複雑な人間関係を、その機微や心の襞まで、縦横に描ききっている。だから《フィガロの結婚》は、お気楽な上演でも親しめる一方で、演奏と演出に力を得ると、どこまで深く、恐ろしいまでに衝撃的な上演になり得る。それこそが、この作品のもつポテンシャルである。

 ここ数年で、その深さが衝撃を与えたものといえば、なんといっても、2006年にザルツブルク音楽祭で上演されたクラウス・グート演出の《フィガロの結婚》だろう。正規のカップルを超えた男女関係のねじれや揺らぎを――もちろん、それはダ・ポンテの台本が示唆し、モーツァルトが音楽の中に仕組んであるものだが――これほど複雑かつ微妙に描いた舞台はなかった。

 その舞台がザルツブルクから運ばれて、ついに日本にお目見えするのである。そのうえ歌手は、ザルツブルク音楽祭のキャスティング・マネージャーが選んだ若き俊英ぞろい、そして、モーツァルト指揮者として世界で最大限の期待を抱かれているティチアーティ率いる、古楽オーケストラの俊英エイジ・オブ・エンライントメントの演奏による上演である。《フィガロの結婚》が持つポテンシャルがいったいどこまで引き出されるか、楽しみでならない。

 公演に先立って来日したザルツブルク音楽祭の、ヘルガ・ラーブル=シュタットラー総裁に単独インタビューしたので、以下に紹介しよう。

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ヘルガ・ラーブル=シュタットラー

Q.日本で上演するクラウス・グート演出の《フィガロの結婚》は、2006年夏の音楽祭で大評判になりました。

A.《フィガロ》はザルツブルク音楽祭の歴史の中で、234回も上演されてきました。このグート演出の舞台は2006年、それまでの祝祭小劇場がモーツァルトハウスに生まれ変わったときに、記念に上演されたものですが、私たちにとっても特筆すべき演出で、DVDとしても大成功を収めています。私どもはグートの演出作品を、ほかのダ・ポンテ2作についてもDVD化する計画で、それは、この演出がこれらの作品の今日的な解釈の決定版で、登場人物たちの心理を実に深く描き出しているからです。これまでの《フィガロ》の描かれ方は軽すぎたと思います。

 実際には伯爵と伯爵夫人、フィガロとスザンナの関係は、笑ったり面白がったりできるものではありません。1999年にもザルツブルクで《フィガロ》を指揮したアーノンクールは、06年にこのグートの演出で指揮したあと、「とても気持ちよかった」と言いました。
 「モーツァルトというと、聴く幸せばかりが強調されるけれども、本当はもっと悲しくて、もっと深いものを持っている作曲家だ」と言うのです。ユルゲン・フリム監督も言いましたが、伯爵と伯爵夫人はあの次の朝、どんな気分で見つめ合うのでしょう。それは心配なくらいですよね。

Q.気になる日本公演のキャスティングですが、どんな基準で歌手たちを選んだのでしょうか?

A.私どもは毎年、演目ごとにまとまったチームを作り出そうと心がけ、そのために毎年、キャストが異なります。07年の再演で多くの歌手が入れ替わり、11年の再演でも、まるで変わると思います。では、どうして日本公演にこのキャストを揃えたか。

 まずスザンナのジェニファー・オローリンですが、一昨年にアンナ・ネトレプコのアンダーを務めました。才能があり、カラヤン賞をもらい、チューリッヒのワークショップで修行を積んでいます。ダムラウが去年倒れたときには、代役でスザンナを歌っています。そもそも彼女はウィーン・フォルクス・オーパーでスザンナを当たり役にしていたのです。伯爵夫人のエイリン・ペレスは、今夏のザルツブルク音楽祭でグノー《ロメオとジュリエット》のジュリエットを歌います。ザルツブルク音楽祭は歌を“買う”だけではなく、歌を“作る”場でもあるのです。

 ペレスはネトレプコのように大きくなる存在だと期待しています。フィガロのアレックス・エスポージトは、モーツァルトの重要な役割を何でも歌えるイタリア人です。彼は今夏、ザルツブルクで《ドン・ジョヴァンニ》のマゼットを歌います。

 伯爵のスティーヴン・ガッドは05年にシュレーカーの《烙印を押された人々》で歌っています。そして、これらのこのキャストはすべて、ユルゲン・フリム芸術監督と、キャスティング・マネージャーのエヴァ・マリア・ヴィーザが選んだものです。

Q.オーケストラはイギリスのエイジ・オブ・エンライントメント(OAE)、指揮者は20代のロビン・ティチアーティです。

A.OAEというオーケストラを選んだのは、非常に新鮮で、オリジナル楽器でもモダン楽器でも上手に演奏できる、非常にレベルの高いオーケストラだからです。サイモン・ラトルが育て上げました。サイモン・ラトルはティチアーティの先生でもあります。ラトルがいなければ、ティチアーティはいなかったかもしれません。彼は確かに若いですが、あの若さにして、すでにモーツァルトをたくさん振っています。なにしろ、15歳で初めてモーツァルトのオペラを指揮し、非常に難しい《コシ・ファン・トゥッテ》もすでに指揮した経験があります。
 今後のザルツブルク音楽祭でも、具体的な内容はまだ公表できませんが、彼を呼ぶ計画があります。ウィーン・フィルに「ティチアーティどう思う?」と聞いたら、彼らも本当に「いい指揮者だと思う」と言っていました。


香原斗志(かはら・とし)◎音楽ジャーナリスト

【公演情報】
4/17(木) 愛知県芸術劇場 大ホール
4/24(木)〜4/25(金) 東京文化会館大ホール

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2008-04-02 18:30 この記事だけ表示
 
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