2010年にクラシック音楽の殿堂カーネギーホールでのデビューを果たしたヴァイオリニストの五嶋龍。今年6月にはニューヨークのオルフェウス室内管弦楽団と日本ツアーを行い、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲で圧倒的な演奏を披露した。そんな彼が11月から12月にかけて3年ぶりに日本でのリサイタル・ツアーを行う。

 予定プログラムは、プロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ第1番、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第2番、パガニーニの作品(「わが心はうつろになりて(ネル・コル・ピュウ)」変奏曲の予定)、そして、ラヴェルの「ツィガーヌ」。最大の注目は五嶋龍が20世紀ロシア(ソ連)のプロコフィエフの作品を演奏することだろう。

 

 「プロコフィエフの第1番は、今回のツアーのメインですが、最初に演奏して、衝撃的な強いインパクトを与えたいと思っています。『素晴らしい』と気に入ってくださる人もいれば、『聴きづらかった』と嫌う人もいるでしょう。僕は大好きな曲で、最初にさらって(練習して)いるときから強いアイディアが一杯浮かんできました。プロコフィエフが時代のプロパガンダや強制的な嗜好のなかで対立的な自分のインディヴィジュアリズム(個人の尊重)を持ち、そのテンションがポジティヴなエネルギーとネガティヴなエネルギーのどちらも生み出しました。それが聴いていて気持ちの良いところと聴き心地の悪さの両方になるのでしょう。その暗さは、皮肉やユーモアが得意なプロコフィエフらしくなくて、どちらかというと、ショスタコーヴィチに似ていると感じます。
 これこそ、一人ひとりが違うものを感じる曲だと思います。僕は、こういうメッセージなんだろうなという思いを込めて、自分が思ったように弾きますので、嫌いという人が出ても成功なんです。不気味で暗すぎる曲といわれてもかまわない。ただ、どうでもいいと思われるのは困ります。」

 そして、ベートーヴェン、パガニーニ、ラヴェル・・・
「ベートーヴェンの2番は、短くて、明るくて、リズミック。パガニーニの『ネル・コル・ピュウ』は、さびしいテーマですが、テクニックによって、喜びにも、皮肉にも、いろんな感情表現になります。それを一口ずつ味わっていただきたいです。『ツィガーヌ』は自由に弾きますが、とてもセンシュアル(官能的)な音楽なので肌で感じてほしいと思います。
 すべての曲を気に入ってもらうことは期待していません。何か1曲か2曲、『これ良かったな』と持ち帰っていただけるようなものがあれば、それでいいと思います。」

〔取材・文/山田治生〕
〔インタビュー写真/坂野則幸〕

 

公演概要

五嶋龍(vn) ヴァイオリン・リサイタル2012 ジャパンツアー


<公演日時・会場>
▼11月
11/21(水)19:00   浦添市てだこホール 大ホール
11/23(金・祝)15:00 福岡シンフォニーホール
11/24(土)15:00   静岡市清水文化会館マリナート
11/25(日)14:00   ザ・シンフォニーホール
11/27(火)19:00   群馬音楽センター
11/28(水)19:00   電力ホール
11/30(金)19:00   川口総合文化センター・リリア メインホール

▼12月
12/1(土)14:00   函館市芸術ホール
12/2(日)13:30   札幌コンサートホールKitara 大ホール
12/5(水)19:00   サントリーホール
12/8(土)15:00   まつもと市民芸術館 主ホール
12/9(日)15:00   石川県立音楽堂コンサートホール

※一部イープラスでは取扱いのない会場もございます。

<共演>
ピアノ:マイケル・ドゥセク

<演奏予定曲目>
プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 へ短調 Op.80
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ長調 Op.12-2
ほか
※曲目、曲順変更の可能性がございます。予めご承知下さい。


2012-06-26 18:10 この記事だけ表示

 2010年9月にウィーン国立歌劇場総裁に就任したドミニク・マイヤーが来日し、今秋の同歌劇場日本公演について語った。マイヤーは、パリ・オペラ座総監督、ローザンヌ歌劇場総監督、シャンゼリゼ劇場総支配人などを歴任したアート・マネージメントのエキスパート。

■各公演のチケット申し込みはこちら
>>「サロメ」全1幕
>>「フィガロの結婚」全4幕
>>「アンナ・ボレーナ」全2幕


 ウィーン国立歌劇場では、年間約300公演を行い、内訳は、オペラが約250公演、バレエが約50公演です。そのほか、スター歌手の歌曲の夕べ、専属のアンサンブル歌手のマチネ・コンサート、オーケストラのメンバーの室内楽シリーズなども行っています。

 ウィーン国立歌劇場の日本公演は1980年以来8回目であり、我々にとっても伝統のようなものになっています。ウィーン国立歌劇場が世界の他のオペラハウスと比べて特に誇れるのは、オーケストラの素晴らしさです。オーケストラ・ピットにはウィーン・フィルが入ります(ピットでは『ウィーン国立歌劇場管弦楽団』と呼ばれますが)。

 今回の来日公演で《サロメ》を取り上げるのも、オーケストラが最も得意としている演目だからです。オーケストラは、リハーサルなしでも弾けるほど、このオペラを愛しています。もちろん音楽監督であるフランツ・ヴェルザー=メストも《サロメ》を希望しました。彼はリヒャルト・シュトラウスのスペシャリストで、今シーズンは《アラベラ》《影のない女》、来シーズンは《ナクソス島のアリアドネ》(新演出)を指揮します。サロメは、若いグン・ブリット・バークミンが務めます。ヴェルザー=メスト監督が彼女の声を聴き、是非、ということで起用しました。

 《フィガロの結婚》は、ジャン=ピエール・ポネルの伝説的演出で、ペーター・シュナイダー指揮です。伯爵夫人は、このたびオーストリア宮廷歌手の称号を受けたバルバラ・フリットリ。かつてウィーン国立歌劇場のアンサンブルにいたことがあり、今でもウィーンでよく歌ってもらっています。伯爵には、カルロス・アルバレスが戻ってきました。フィガロは、人気の高いアーヴィン・シュロット。スザンナは、ハンガリー出身のまだ27歳のアニタ・ハルティッヒです。2年間我々の歌劇場でモーツァルトの諸役を歌い、ウィーンの聴衆から愛されています。

 ドニゼッティの《アンナ・ボレーナ》は、昨シーズンの新演出で、そのときがウィーン国立歌劇場での初めての上演でした。不思議なことに、こんな傑作が今まで我々の歌劇場で掛かっていなかったのです。アンナは、エディタ・グルヴェローヴァ。彼女が日本でオペラを歌うのは最後かもしれません。3日前、ウィーン国立歌劇場で、彼女は、歌曲の夕べをひらき、スタンディング・オーベーションの大成功を収め、今でも素晴らしいことを示しました。ジョヴァンナはこの役では今最も必要とされているソニア・ガナッシ。グルヴェローヴァとガナッシの共演する《アンナ・ボレーナ》はまだウィーンでも上演されていません。ウィーンのオペラ・ファンが嫉妬することでしょう。

 そのほか、ウィーン国立歌劇場にとって大切な作品である『子どものためのオペラ魔笛』を日本でも上演します。パパゲーノは、我々の歌劇場の日本人歌手、甲斐栄次郎が務めます。

〔文/山田治生〕


公演概要

ウィーン国立歌劇場


▼「サロメ」全1幕
リヒャルト・シュトラウス作曲

10/14(日)〜10/19(金) 東京文化会館大ホール (東京都)

指揮:フランツ・ウェルザー=メスト
演出:ボレスラフ・バルロク
出演(予定):グン=ブリット・バークミン/マルクス・マルカルト/ルドルフ・シャシンク/ヘルベルト・リッペルト/ウィーン国立歌劇場管弦楽団/ウィーン国立歌劇場合唱団

▼「フィガロの結婚」全4幕
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲

10/20(土)〜10/28(日) 神奈川県民ホール 大ホール (神奈川県)

指揮:ペーター・シュナイダー
演出:ジャン=ピエール・ポネル
出演(予定):カルロス・アルバレス/バルバラ・フリットリ/アニタ・ハルティッヒ/アーウィン・シュロット/マルガリータ・グリシュコヴァ/ウィーン国立歌劇場管弦楽団/ウィーン国立歌劇場合唱団

▼「アンナ・ボレーナ」全2幕
ガエターノ・ドニゼッティ作曲

10/27(土)〜11/4(日) 東京文化会館大ホール (東京都)

指揮:エヴェリーノ・ピド
演出:エリック・ジェノヴェーゼ
出演(予定):エディタ・グルベローヴァ/ソニア・ガナッシ/ルカ・ピサローニ/シャルヴァ・ムケリア/エリザベス・クールマン/ウィーン国立歌劇場管弦楽団/ウィーン国立歌劇場合唱団/ウィーン国立歌劇場舞台上オーケストラ

2012-05-11 14:09 この記事だけ表示

 2009年に惜しまれつつ世を去った不世出の振付家ピナ・バウシュ。その命日である6月30日に、ピナ作品の映像上映と、ピナの舞台音楽を担当し晩年の彼女と交流のあった国際的ミュージシャン・三宅純を中心としたライブ演奏による追悼公演が行われる。2005年以降パリを拠点に活動する三宅の一時帰国中に公演へ期する思いを聞いた。

 “異種交配”によって創意豊かなサウンドを世に放つ三宅とピナとの出会いは2004年。ヴッパタール舞踊団から三宅の既成曲を使いたいという照会が入る。それを機に楽曲提供が始まり、毎年公演のためパリを訪れるピナやダンサーたちと夜な夜な語り明かすようになった。自身のアルバムのための制作曲が世に出る以前に舞台に用いられるようになり、「フルムーン」(2006年)ではピナ作品初となるサウンドトラックをプロデュース。温厚にして厳粛な性格で知られたピナがカフェでタバコとグラスを手にサッカーW杯のテレビ中継に見入って興奮する!というチャーミングなシーンが印象に残っているという。

 「ピナのカンパニーには、ありとあらゆる国籍・年代層の人が所属し、共存あるいは拮抗しながら作品を生み出していく。といっても個性を失うわけではなく個が個に還っていくことによって、ひとつの世界観が出る。ピナの作品に出会う前から僕の音楽はそれと同じ手法を用いていました。」

 ピナの突然の死は衝撃であり、もはやパリにいる意味がないと落ち込んだ時期もあるという。が、ピナの死後撮影され楽曲提供したヴィム・ヴェンダース監督の「PINA/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」(2011年)に接しピナの死への受け止め方に変化が訪れる。

 「死ぬということは消滅することではなく強烈に不在することだな、と。ピナは十分大きな存在だったけれども、亡くなったことで、さらに大きくなったと感じます。」

ピナ没後3年に際し行われる今回の追悼ステージへの抱負を次のように述べる。

「ピナの命日であること、新宿文化センターという彼女が日本でずっと公演をしてきた場所で行うということなので、ぜひ協力したいと思った。ピナの舞台や映画「PINA」の使用楽曲も入りますが、僕個人としてピナに捧げる音楽、捧げものとして捉えていただければ。」

「フルムーン」などの劇中使用楽曲に加え今回のために書き下ろす曲もあるという。映画「PINA」の予告編にも使われた名曲「Lilies of the Valley」はもちろん演奏予定。映画のエンドロールに流れた「tHe heRe aNd afTer」は映画同様アメリカ人女性歌手リサ・パピノーが歌う。三宅の信頼厚いブルガリア・コスミック・ヴォイセズ合唱団も出演する。

「リサは非常に個性的な声の持ち主。難病を抱える境遇ながら果敢にツアーを行い制作も続ける気丈な人です。ピナとも接点がありました。ブルガリアン・ヴォイスには、追悼ということを考えたとき、彼女たちの声が入ることによってスピリチュアルな面が出せるのではないかと思い参加してもらいます。アカペラで伝統的な曲を歌うのではなく、ハイブリッドな使い方をしてピナのように異種交配な感じを出せれば。」

ピナを愛してやまなかった人にとってもピナの死後に彼女の存在を知った人にとっても見逃せない、聴き逃せないイベントになるだろう。三宅は決意をこう語ってくれた。

「映画「PINA」を観たとき、二度と観ることができないピナの新作を観たような気がしました。今回のコンサートが二度と作られる事の無いピナの新作、その架空のサントラのようなコンサートが出来たらよいなと思っています。」


〔取材・文/高橋森彦(舞踊評論家)〕
〔インタビュー写真/坂野則幸〕


公演概要

<特別追悼公演>ピナ・バウシュ トリビュート
映像と音楽で綴る 舞踊家ピナ・バウシュの軌跡


<公演日時・会場>
6/30(土) 新宿文化センター 大ホール (東京都)
【第一部】ピナ・バウシュ作品の映像上映
【第二部】トリビュートコンサート

<演奏予定曲目>
■「Lilies of the valley」 (映画「PINA ピナ・バウシュ踊り続けるいのち」メインテーマ楽曲、ピナ・バウシュ
ヴッパタール舞踊団「VOLLMOND」劇中使用楽曲)
■「tHe heRe aNd afTer」 (映画「PINA ピナ・バウシュ踊り続けるいのち」エンドロール使用楽曲、ピナ・バウシュ
ヴッパタール舞踊団「SWEET MAMBO」劇中使用楽曲)

<出演>

(写真左)リサ・パピノー(Photoby Betsy Kenyon & Melanie Willhide)
(写真右)ブルガリア・コスミック・ヴォイセズ合唱団(Photo by Vassilka Balevska)

三宅 純(トランペット、ピアノ他)、
リサ・パピノー(ヴォーカル)、
ブルガリア・コスミック・ヴォイセズ合唱団(ポリフォニー女声合唱)、
落合徹也ストリングス(落合徹也(ヴァイオリン)、
藤田弥生(ヴァイオリン)、カメルーン真希(ヴィオラ)
村中俊之(チェロ))、バカボン鈴木 (ベース)
伊丹雅博(ギター、ウード)、yoshie*(パーカッション、ドラム) 他


上映はピナ・バウシュ演出・振付の作品となりますが、作品名は後日正式発表となります。(※作品によってはピナ・バウシュ自身の出演がない映像の場合もございます。あらかじめご了承下さい。)

2012-04-20 20:23 この記事だけ表示

小池ミモザ

 地中海の宝石とも讃えられるモナコ公国を拠点とし、カロリーヌ王妃を総裁に戴くモンテカルロ・バレエ団に一昨年、個性的な輝きを放つ日本人プリンシパルが誕生した。小池ミモザだ。

 「ドラマティックな任命などはなかったんです。毎年交わす契約書にさりげなく書かれていて、あれ?と(笑)。確かにそのころ、ベジャール振付&ニジンスキー振付『春の祭典』など、幾つか主役を踊る機会がありましたが、自分としては、与えられたものをただ一生懸命にこなしていただけでした」

 昇進後、初めての日本公演となる今回、小池は上演演目のうち『アルトロ・カント1』『シェエラザード』『シンデレラ』に主演。凱旋公演さながらの活躍を見せる。

 「『アルトロ・カント1』は初演以来、他のキャストが変わっても私だけは踊り続けています。なので客席から観たことはないのですが、蝋燭を使った幻想的なムードにモンテヴェルディの音楽が合っていると思います。『シェエラザード』はバレエ・リュスへのオマージュとして古風な味わいが取り入れられている一方、どこか現代的でもある、不思議な作品。装置にしても、片側には昔の絵があり、反対側にするとモダンな感じになるんですよ。『シンデレラ』は入団当初から大好きな作品。振付にも衣裳にも音楽にも、クラシカルな雰囲気とモダンなテイストがミックスされ、物語上も、悲しい部分から笑ってしまうような部分まで、多面的な作品ですね。主役の仙女を踊ることができるのは、とても嬉しいです」

 公演最終日は、震災からちょうど1年後の3月11日。追悼セレモニーとして、小池自身の振付による彼女のソロが披露される。

 「悲しい出来事だったけれども、何より、それを乗り越えていくための"希望"を表現したいと考えています。私も震災を機に、一人ではなく、みんなの力が必要だと改めて感じたので、バレエ団員で一緒に『シンデレラ』を踊ること自体が追悼でもありますが、その前に少し、思いを動きにと。私にとって、感情を動きにすること自体が生のイメージ。その意味でタイトルを『La Vie』と名づけました」

 ツアー先の景色をとどめたいとビデオを回し、その前で踊るうち、振付に目覚めていったという彼女。日本に帰国するたびに歌舞伎や能を鑑賞するなど、インプットも忘れない。

 「そうやって学んだことは、『La Vie』にも表れると思います。私は日本人であることに誇りを感じているし、日本の良さを個性としてどう見せられるかを追求しているんです」

 そう言って、瞳をきりりと輝かせる。独創的で力強い、新時代のやまとなでしこの舞を、しかと見届けたい。

〔取材・文=高橋彩子(舞踊・演劇ライター)〕

モンテカルロ・バレエ団の公演を観て
復興を支援しよう!

 3.11からもうすぐ1年。イープラスでは復興支援企画として、「モンテカルロ・バレエ団」日本公演にて特別受付の実施が決定しました。

 <義援金付き特別鑑賞券>として、S券またはA券相当を【¥7,000】で販売いたします。チケット料金の一部は、義援金として被災された子供たちの心のケアに使われることになります。

 尚、3月11日の「シンデレラ」公演の前には、追悼セレモニーが予定されています。14:30開演ですが、団員で振付も手がける小池ミモザさんが、この日の公演のために追悼にふさわしい小品を創って披露されるとのこと。そして、14:46に全員で黙祷を捧げた後、本公演が始まります。

 会場では義援金の募金活動やチャリティ・グッズの販売も予定されています。ぜひ、今回の「モンテカルロ・バレエ団」日本公演を通して復興支援にご協力をお願いします。

【公演詳細・お申込み】
[会場]東京文化会館大ホール (東京都)

▼モナコ公国 モンテカルロ・バレエ団<Aプロ>
公演日:3/6(火)19:00開演、3/7(水)19:00開演
・義援金付き特別鑑賞券はこちら

・その他のチケット申込みはこちら

▼モナコ公国 モンテカルロ・バレエ団<Bプロ>
公演日:3/10(土)14:00/19:00開演、3/11(日)14:30開演
・義援金付き特別鑑賞券はこちら

・その他のチケット申込みはこちら

2012-03-01 18:59 この記事だけ表示

左から萩原麻未(ピアノ)、神尾 真由子(ヴァイオリン)

 東芝グループの芸術文化支援活動の一環として毎年、世界各国の著名な指揮者・オーケストラを招聘、世界を舞台に活躍している豪華なソリストを招き、 公演を提供してきた『東芝グランドコンサート』。2012年は、さらなる活躍が期待されている話題の指揮者フランソワ=グザヴィエ・ロト率いる南西ドイツ放 送交響楽団バーデン=バーデン&フライブルク(以下、南西ドイツ放送交響楽団)を招いての公演。ソリストにはヴァイオリニストの神尾真由子さん、ピアニ ストの萩原麻未さんを迎える。

 なかでも話題と注目を集めるのが、昨 年、ジュネーヴ国際音楽コンクール〈ピアノ部門〉で日本人初の第1位獲得という快挙を成し遂げたピアニスト、萩原麻未さん。ジュネーヴ国際音楽コンクール はこれまで、ミケランジェリ、グルダ、アルゲリッチ等、錚々たるピアニストを輩出しながらも、あの現代最高のピアニストの一人、マウリツィオ・ポリーニ でさえも第1位を得ることはできなかったほど(2年連続第2位)、また第1位を出さないことで有名な厳しいコンクール。萩原さんの第1位受賞は日本人初として だけでなく、〈ピアノ部門〉では実に8年ぶりのことだった。
 「優勝どころか、まさかファイナルに残れるとは思っていなかった」、という萩原さん。ファイナルに進み、優勝したことで今まで見えなかった世界が見え てきたり、出会えなかった人たちと出会えたのはとても貴重な体験だった。

 「スイス・ロマンド管弦楽団と共演させていただけるというだけで嬉しかったのですが、あのときは、ああ終わっちゃった、という悲しい気持ちがすごく強 かったですね。自分の演奏の前に〈オーボエ部門〉があり、そこで初めて彼らの演奏を聴いたんです。すごく感動して、自分もあのなかで弾けるんだ、という のがすごく嬉しかった。もちろんすごく緊張していたんですが、怖いとか落選したらどうしようとかいう気持ちはまったくなく、それよりも、スイス・ロマン ド管弦楽団と同じ舞台に立てるという嬉しさの方が勝っていました」

 一番好きな作曲家はシューマンだというが、ファイナルで選んだ作品は『東芝グランドコンサート』でも演奏するラヴェルのピアノ協奏曲ト長調。ジャズの 要素を盛り込んだ陽気な第1,3楽章と、叙情的で美しい第2楽章で有名な名曲だ。フランスものを積極的に取り入れている彼女にとって、もちろんラヴェルも好 きな作曲家。「自分が得意かどうかというよりも、聴いてくださった方がいい作品だなあと思ってくださる方が嬉しい」という想いからラヴェルを選んだ。
 コンクールでの彼女の演奏を振りかえると、特に第2楽章が印象に残る。若手のピアニストとは思えないほど成熟した、朗々とした歌心に充ち満ちた演奏だっ た。
 「ファイナルの前は眠られないほど緊張していました。でも、オケの方と話をする機会があり、第2楽章の歌い方はソロを吹かれるイングリッシュ・ホルンの 方から影響を受けたところが大きいかもしれません」
 パリを拠点に活動を続け、パリ国立高等音楽院(コンセルヴァトワール)に在学中の萩原さんは、すでにマスタークラスを終え、現在は室内楽専攻の2年生だ 。室内楽を通じての他者との演奏体験が彼女の“現在”を生み出しているに違いない。
 「室内楽は楽しいです。今は、一人で弾くことよりもむしろ、誰かと一緒に音楽を創ることの方に興味があります。すごく心通ったところがあった時に、終 わったあとみんなでその喜びを分かち合えるというのは、何者にも代え難いです」


 ラヴェルのピアノ協奏曲をオーケス トラと共演したのはコンクールが初めてだった。今年になり、4月にパリでの東日本大震災のチャリティーコンサート、そして、7月には故郷広島での広島交響 楽団との共演でも披露した。
 「コンクールで共演させていただいたスイス・ロマンド管弦楽団の演奏に刺激されて、終わった後、もっと弾きたい、もう一度弾きたい、という気持ちがす ごく強くなり、今は何度弾いてもまた弾きたくなります。ラヴェルを弾いていると、オーケストラの個々の楽器と対話しながら、オケの一員として演奏してい るような気持ちになるんです。今度は『東芝グランドコンサート』で何回か弾かせていただくのですごく嬉しいです」

 これまで何度かラヴェルを弾き、その都度生まれてくる音楽にも変化が現れる。指揮者からも多くを学んだ。
 「オーケストラと共演するということは、自分以外の誰かと一緒に演奏するわけで、自分がどう演奏したいというよりも、どう演奏すればより音楽に馴染め るか、いい演奏になるかを考えながら演奏しています。7月に指揮していただいた飯森範親さんからは、学ぶことが多かったです。飯森さんがオケの方に指示さ れるのを聞いているとすごく勉強になりました。そうしたなかで私も変わって行ったところもありました」

 一日に5、6時間ほど練習するそうだが、気持ちが向かないこともある。そんなときは、ピアノ以外の事で気分転換することを大切にしている。よく散歩する が、そこから学ぶことも多い。
 「学校の周りを散歩したり、美術館に行くことが多いですね。可能な限りそうした時間は作るようにしています。街がほんとうに綺麗なので、散歩している うちにあのフレーズはこう・・・と、音楽のイメージが湧いてくるんです」


 好きな演奏家や影響を受けた演奏家は 多いが、目標にしている演奏家はいない。そう話す彼女の口調には、すでに確固たる自信がみなぎっている。
 「自分の道は自分でしか創っていけないと思うんです。もちろん尊敬する演奏家はたくさんいて、日々学ぶことばかりです。その他にも、モネやゴッホの絵 からも触発されたりします。
 いろんな経験をし、いろんなものに触れ、自分から離れているところにあるものから影響を受ける方が、自分の考えがはっきりとしてくることが多いように 思います」

 『東芝グランドコンサート』では、フランソワ=グザヴィエ・ロトさん、南西ドイツ放送交響楽団ともに初の共演となる。
 「ロトさんにはすでにお会いしました。すごくフレンドリーな方でした。マエストロにもラヴェルを聴いていただいたのですが、ぜひ多くの日本のみなさん にもラヴェルを生で聴いてもらいたいというマエストロの意向もあり、ラヴェルを弾かせていただくことになりました」

 ドイツのオーケストラのなかでも近現代の作品を得意とする南西ドイツ放送交響楽団。スイス・ロマンド管弦楽団とはまた違った現代的かつドイツ特有の響 きに包まれ、萩原さんのラヴェルがどう化学変化するだろうか。
 「何かを演奏するときに、自分がこう弾くんだというよりも、むしろ、聴衆のみなさんから聴き終えた後に、こんなにいい曲だったんだ!!と言っていただ けるのが一番嬉しいんですね。ラヴェルのピアノ協奏曲をお好きな方も多く、みなさんそれぞれの作品への想いがあると思いますので、私自身がそこまでどれ だけ近づけるか。期待を裏切らない演奏で応えたいです」

 また、ヴァイオリニストの神尾真由子さんはシベリウスで共演する。聴衆を圧倒する音色が特徴的な彼女のヴァイオリンからは、渋く劇的なシベリウスを聴 けることだろう。
 他に、マーラーの交響曲第5番、ベートーヴェンの交響曲第3番〈英雄〉などが予定されている。
*公演日程により、出演者、プログラムなどが変わります。

(取材・文:唯野正彦)

2011-10-03 18:30 この記事だけ表示

 新国立劇場バレエ団芸術監督、デヴィッド・ビントレー氏に、新作『パゴダの王子』の作品誕生の背景や新国立劇場バレエ団での創作活動について、お話を伺った。穏やかでユーモア溢れる英国紳士と永遠の少年が共存するような印象だった。


――先ほどのリハーサルで、ビントレーさんが振付されるご様子を拝見しました。タンゴの動きが難しそうですね。

 そんなことはないです。今日は、ゆっくりと確認をしました。自分ができていると思っていて、できていない部分が数箇所あったので、そのままにして、日本を発ちたくなかったのです。(ビントレー氏は、このインタビューの二日後に英国に帰国)


――創作方法について伺いたいのですが、最初に全体的な振付を考えているのですか。もしくは、稽古場で動きを生み出すのですか。

 稽古場です。事前に全ての振付はしません。ただ、構想というか、どのシーンで、どのような物語が語られるか、ということは頭の中に明確にあります。例えば、先ほどのタンゴのシーンは、大正時代の設定です。外圧が押し寄せる時代に、皇帝は富士山の上から、その様子を苦々しく見ている。財力が目当ての女王エピーヌは、外敵を自ら招きいれ、宮廷は秩序を失い、退廃してゆく。そこに救世主としてさくら姫が現れるという筋です。史実に忠実でもなく、まじめなものではありません。ファンタジーです。なにしろ、江戸時代から大正時代まで、同じ人物が演じるのですからね。


――新作『パゴダの王子』が生まれた背景を教えていただけますか。

 ブリテンの音楽は何十年も前から知っていて、具体的なきっかけの一つは、いろいろな日本での公演を見る中で、日本の観客が、ディベルティスマン(余興的にたくさんの踊りが、次々と登場する形式)を好むことに気付きました。まさに、『パゴダの王子』第二幕は、この形式にぴったりで、雲、星、海の創造物、タツノオトシゴなどいろんなキャラクターが出てきます。それを、日本を舞台にできたらいいと思ったのです。もう一つのきっかけは、歌川国芳の浮世絵や日本の様々な美術の画集です。そこに、私がバレエ作品として描きたかったものがすべてあり、長年温めていた構想が実現しました。 ちょうど、日本初演の今年は国芳の没後150年で、2013年はブリテンの生誕100年で、本当に偶然ですね。


――ビントレーさんにとって、歌川国芳の浮世絵の魅力とは何ですか。

 江戸末期とはいえ、現代につながる、驚くほど時代の先端を行く、近代的な絵画であるということです。例えば、蛙がタバコを吸っているような、動物を擬人化した豊かな表現力。奇奇怪怪なユーモアのある世界、自然の描き方に、果てしない想像力を感じ、独特の美意識があります。彼の絵画には、最初から明確なプランがあり、「このように描く」という決然とした線を感じます。美術のレイ・スミスが、国芳の世界を舞台上にどのように抽象化して表現するのか、そして、色鮮やかな衣装とどのように融合するか楽しみです。


――日本を舞台にした新作『パゴダの王子』ということで、今回はお能の動きを取り入れましたね。ビントレーさんは、「お能とバレエは対極にある」と仰っていましたが、何か共通点はありませんでしたか?

 あまりないようですね。まず、動きのスピードが違います。そして、お能は即興性が高いと思う。バレエの場合、音楽を5小節増やすことはできないですよね。お能だと、演者によってお得意の場面では音を伸ばすとかできますね。バレエに即興はないです。私がやらせようと思っても、ダンサーが嫌がります。


――これからの新国立劇場バレエ団や日本のバレエに期待することは何ですか。

 ダンサーは引っ張る人次第です。私はダンサー達の新しい挑戦として、『パゴダの王子』を創りました。様々なスタイルの作品を経験することが、今のダンサー達の理想に近いと思います。日本のバレエには、ディアギレフ以降の流れが抜けています。英国では、クラシックとコンテンポラリーの距離が近く、時間の繋がりがある。批判的な意味はなく、過去(革命前のロシアの古典)にしがみつくことはないのです。恩師ニネット・ド・ヴァロワは、ディアギレフのバレエ団出身で、彼の「音楽、美術、物語、舞踊が融合した総合芸術としてのバレエ」という考え方を受け継ぎ、英国バレエの基礎を築きました。私にとっても、ディアギレフの世界は、12歳の頃から慣れ親しんだかけがえのないものです。ですから、新国立劇場でも『火の鳥』(振付:フォーキン、音楽:ストラヴィンスキー)を上演しました。ダンサーも観客も、歴史的な流れの中で育ってゆくのです。

(文/池田愛子)
(写真/渡辺マコト)

【関連記事】
世界初演の待望の新作、ビントレー版『パゴダの王子』リハーサル・レポート

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<概要>
2011/12/17(土)〜
2012/2/12(日)
森アーツセンターギャラリー

<発売日程>
10/3(月)より早割りペア券
11/1(火)よりe+限定で夜間ペア券発売開始!

≫チケット申し込みはこちら


2011-09-29 14:23 この記事だけ表示
第459回定期演奏会 トリフォニー・シリーズ 『完璧なる未完』
ベテランメンバー3人によるゆるーい音楽談義〜Monsters of Classics編〜より

オケマン歴20年以上限定!!
酸いも甘いも噛みしめた、ベテランメンバー3人による音楽談義 モンスターズ編。
ハウシルト、クン=ウー・パイク、アルミンク・・・指揮者とは、音楽家とは…
オケマンの喜び…
思いつくままに語りました。
音楽家ならではの語り口って、けっこう新鮮です。

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左/首席フルート奏者:白尾彰(1983年入団)
右/首席チェロ奏者:花崎薫(1984年入団)

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首席ホルン奏者:井手詩朗(1988年入団)


ハウシルトは、デトックス。

白:それとブルックナーの9番は楽しみだね。
井:これはね。
花:これは。
白:これは・・・健康診断みたいなもんだから。
井:楽しいですよね。
花:つまり、きれいにお掃除してくれるの。
白:そう、すっっごく耳が良い人!僕ね、今までやった指揮者の中で一番耳がいい人だと思う。
井:いかしたおじさんだしね、おもしろい。

とにかく耳がいいんです

白:ある意味、職人なんですよ。すっごく耳が良い。
誰でも音程があわないのはわかるけど、もう即座に内声から何から全部直していく、そういう人。
たとえば食べ過ぎて断食道場に行くと健康になるとか、それまで汚れてたのがアカすりするとすごい気持ち良くなるとか、そういう喜びってあるじゃない。
この人の時は、そういう“すっごく気持ちいい”があるわけ。
井:そうそう、終わると気持ちいい。
白:とにかく誰も「そんなことない」って言えないくらい耳がいい(笑)。
花:それはそうだね、誰も文句言えない。
だからブルックナーなんてすごくいい。本当に素晴らしいと思う。
白:そう!昨年のベートーヴェンとかもあれはまた別でいいね。最近、スッキリ系が流行っててみんな軽快で、“軽く軽く”だけど、たまにはいいね、ああいうシッカリ系。
―ちょっと土くさいどっしりしてるというか。
白:そう!いいよね、それは確かにありますね。

本公演ではイープラス限定で学生A席6,000円がなんと1,000円で聴ける!
席数限定なのでお見逃しなく!



2010-03-09 14:31 この記事だけ表示

――今回のプログラミングについて、お聞かせいただけますか。特に、大曲であるシュトラウスのソナタを選ばれたのはどのような思いがあったのですか?
 今回はシュトラウスのソナタを中心に、様々な作曲家のプログラムを組みました。今まで何度かシュトラウスの交響詩等の作品に触れる機会があり、このソナタからもオーケストラのような響きを感じ、とても興味を持ちました。彼が24歳の時に作曲されたこの曲から感じられる若々しさや美しいメロディにも惹かれ、まさに今取り組みたい曲だと思いました。そしてピアノとの対話が美しいベートーヴェンとシューマンのソナタ、少し気分を変えてラヴェルとチャイコフスキーの小品を選びました。どの曲からも作曲家独特の世界観が感じられると思いますので、楽しんでいただけたら、と思います!


――今後取り組んでみたい作曲家やジャンル(オーケストラ、室内楽、ソロなど)をお聞かせ下さい
 取り組んでみたい曲は書き切れないくらいありますが、コンチェルトではプロコフィエフやシベリウス、ベルク、ストラヴィンスキー等を勉強したいと思っています。ヴァイオリン・ソロでは、いつかイザイのソナタ全曲に取り組むという事を目標としています。イザイはヴァイオリンという楽器の魅力が多く盛り込まれている、ヴァイオリニストにとって重要なレパートリーのひとつだと思います。
また、作曲家ではブラームスに取り組みたいです。ブラームスの、言葉のような美しい音楽の流れに心を惹き付けられますし、室内楽にもたくさんの作品があります。今年は室内楽でも素晴しい体験をさせていただき、多くを学びましたので、これからも時間の限り積極的に取り組んでいきたいです。


――最後に、あなたにとってヴァイオリンとは?
 私にとってヴァイオリンはあまりにも自然に身近にあるものなので上手く言葉にする事はとても難しいのですが、ヴァイオリンが私の人生そのものとか、生活の中心にあるのではなくて、何かを考えたり、感じたりするときに底辺となっているような感覚があります。また、生活をする上で触れている事柄すべてがヴァイオリンを演奏する事につながっていると感じていますので、演奏する事に限らず様々な事を楽しんだり、チャレンジしていきたいと思っています。


【公演日・会場】
11/28(土) 18:00開演 紀尾井ホール (東京都)

【曲目】
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第3番 変ホ長調 op.12−3
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ短調 op.105
ラヴェル:ハバネラ形式の小品
チャイコフスキー:ワルツ・スケルツォ op.34
R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 op.18

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2009-11-19 11:41 この記事だけ表示
 日本を代表する作曲家でピアニストの加古隆、世界的な振付家で演出家でもある山海塾の天児牛大、ヨーロッパを中心に活躍するブラジル出身のダンサー、イズマエル・イヴォ。彼ら三人がジャンルや表現方法の枠を軽々と飛び越え、共に創作した作品が『アポカリプス―黙示録』だ。1989年の初演時に大評判となり、伝説となったそのステージが約20年という時間を経て、再び蘇ることになった。作品が誕生したいきさつや、長い時を越えて再び取り組むことになったきっかけなどを、加古隆に語ってもらった。

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2008-09-10 14:38 この記事だけ表示
『篠崎史紀 presents ハートストリングスな夏の夜』公演へ向けて
篠崎史紀スペシャルロングインタビュー!


インタビューが行われたのはゴールデンウィーク直前の木曜日。「終日冷たい雨」という天気予報が見事にハズれて、東京は快晴微風の清々しい午後となった。我らがMAROさんこと、ヴァイオリニスト篠崎史紀氏は、西新宿のカフェテリアで、新緑が眩しい街路樹に時折目をやりながら、良く通る、しかし柔らかい声で語り始めた。

maro_w170.jpg◆今回のプログラムは、一般的に言うところの「小品」が多いようですが、分かり易さのようなものは意識されましたか?(プログラム詳細はページ下部をご参照ください)

MARO 「よく『小品は分かりやすい、シンフォニーは分かりにくい』と言われますけど、そういうことではなくて、交響曲と今回演奏するような曲とは面白さが違う、ということです。それは、ちょうど古典落語と新作落語のようなもの。古典落語の中には1時間を超えるものもある、一方はショートショートの新作落語、どちらも面白い!面白さが違うだけです。クラシック音楽においては、作曲家がどういう意志でその曲を書いたのか?が、大切な出発点になるわけですが、例えばベートーヴェンを例にとると、弦楽四重奏で彼はまず「実験」をして、その結果を交響曲で「結晶」にした。ではピアノ曲は?というと、室内楽よりさらに前の段階、実験のための実験のようなものと、たとえばある女性への気持ちをそのまま書いたようなものの両極端に分かれていると思います。今回の演奏曲目の中で言うと、例えばエルガーは「愛の挨拶」で、奥さんの誕生日のために「気持ち=変らぬ愛情」を曲にした。でも交響曲はそうではない、彼はここでは「意見や哲学」を書いた。このように小品と呼ばれるものは作曲家の感情や気持ちがそのまま書かれているものが多いので、結果として聴き手に届きやすい、ということなのだと思います。

◆実際にクラシックのコンサート!ということになると、やはり曲が長くて『好きな部分が来る前に眠ってしまった』という声もよく聞きます。初めてクラシックを聴こう、という方には30分、1時間の交響曲などは、高いハードルになってしまいがちですね?

MARO 「そのハードルが、大切なんですよ。実は僕はWHO(世界保健機関)の評議員をやっているのですが、以前学会で、ある博士が、『クラシック音楽は、人間が向かって行って、はね返される、どうにもならない壁!を知ることが出来る身近なもののひとつ』と発表していました。スゴく面白い!今の子供達は自分が要求したら、何でもモノが落ちてくる、我がまま言えば何でも手に入る、気に入らなければ、例えばゲームだってリセットすればいい。自分の力ではどうにもならない、という状態が少なくなっている。だからそういう「壁」にぶち当たることを学ぶには、クラシックは、ひとつの手頃な対象だ、というのですね。壁に直面した時に、子供は我慢することや、ぶつかっていこうとする挑戦心や、理解するための工夫などを身につけていく。こうしたことを学ばずにオトナになった人々が作る社会は、すぐに潰れてしまうだろう、とその博士は発表していました。

◆では、今、世の中にたくさんある『難しいクラシックをやさしくします』という一連の動きは、ナンセンスだとお考えですか?

MARO 「もちろんそれもまた必要なことです。大切なのは、物事は普通、いろいろな方向性を持って進むべきなのではないか?と思うのですが、何故か日本のクラシック業界の動きは、みんな同じ方向、つまり「難しくない、やさしいですよ」だけに向いているのが気になるのです。それにそもそも「やさしい」と言っても、耳にしたことがありそうな曲を流しているだけで、本当にクラシックを簡単にしたことはないのですよね。例えば、交響曲のある楽章だけを選んで一夜の演奏会をするとか・・・」

◆演奏会ではありませんが、OTTAVAはまさにそういう放送をしているので、篠崎さんにそう言って頂けると、本当に勇気百倍です。ただこうしたやり方が作曲家の意志を反映できているのかどうかは分かりませんが。

maro_w150.jpgMARO 「作曲家というのは、哲学者であったり、自分の人種や民族を世の中に提示していく目的や、新しい考え方や技術を世の中に示して行くために音楽創作をする、いわば『生産者』です。対して僕ら演奏家は『再生者』。生産者である作曲家の意志は尊重しつつも、それを自分の中に取り込んで、新しいものとして聴衆に届けていくのが僕たちです。それはちょうど、作曲家が作ったレシピを元に、自分の味覚や嗅覚などを駆使して、目の前のお客さんに料理を出すシェフや板前さんのようなものです。僕が演奏家としていつも気をつけているのは、万人の口に合うものを作るのではなく、自分の腕と感性を信じて料理する『頑固な板前さん』でありたい、ということ。自分ならではの料理を作ったら、あとはお客さんがどう評価してくれるか?それで良いと思っています。作曲家、演奏家、そしてOTTAVAのようなメディア、それぞれが、さまざまな考えと感性で音楽を聴衆に届けていかないと、面白くならないですよね。

◆今回のようなコンサートと、日頃のNHK交響楽団のコンサート・マスターとしての篠崎さんと、演奏家としての取り組み方は、やはり違うものなのでしょうか?

MARO 「立場ということだと、大きく違いますね。オーケストラというのはメンバー100人なら100通りのアイディアがあって、そこに指揮者という、ひとつのアイディアを持った人がやってくる。指揮者は原則いつもゲストですから、僕はホストとして、指揮者のアイディアによってコンサートが無事遂行できるように、100人の考えと指揮者の考えとの融合点を探ることが大切になるわけです。交響曲のように大きな作品になればなるほど、作曲家の主張は強くなりますから、それを今回の指揮者がどう解釈しているか?を理解して、メンバー全員でそれを共有できるようにするのが、コンサート・マスターの最大の仕事なわけです。一方今回のようなアンサンブルの時は、人数も少ないし、指揮者もいないから、全員の意見をどこでまとめあげていくか?というリハーサルになります。話し合いをしながら進めていく、という感じです。」

◆意見が合わなくて、もめることもあるでしょうね?

MARO 「僕は九州出身で、醤油ラーメンが許せない人ですから(笑)。この間も浅草に老舗の天丼を食べに行ったら、出て来たエビ天が黒く揚がっていてびっくりした(笑)。料理の好みの数と、コトバの方言の数だけ音楽は存在する、と言われますからね。ただラーメンはラーメンで、饂飩や蕎麦にはなりませんから、作曲家が書いたラーメンと言うレシピに、みんなでどんな味をつけていくかが面白いのです。」

◆今回の編成は?

MARO 「5(第1ヴァイオリン)、4(第2ヴァイオリン)、3(ヴィオラ)、3(チェロ)、1(コントラバス)の16人の弦楽合奏です」

◆なぜかメンバーは全員男性とか?

MARO 「これは僕の個人的な意見なのかもしれませんが、社会における柔軟性というか、バランスよく現実も考えながら新しいモノを作って行くのは、女性の方が得意だと思うのです。対してオトナになっても子供の頃の夢が捨てきれなくて、危ない、と思っても冒険してしまうのが、僕たち男性だと思っているのです。今回はそんな「男らしさ」で楽しんでみようと思いました。演奏でも失敗(ズレたりすること)の可能性があるのが分かっていても、無理やり飛び込んで行くような(笑)」

◆では、今回のコンサート、ギリギリ勝負!というような場面も・・

MARO 「あるでしょうね。危ない、と思っても牌を打つのが男だと思っていますので(笑)。今回のプログラムで、一番のメインになるのは、チャイコフスキーの『弦楽セレナーデ』です。これは「オー人事」のCMで有名になった曲ですが、本来はセレナーデというと「音のラブレター」。今回はそんな原点に返って「夢を語れる」16人で思い切りロマンティックに演奏したいと思っています。

◆MARO弦楽合奏団という名前については?

MARO 「マロは僕のニックネームなのですが、このアルファベット4文字MAROにはある意味を持たせています。それぞれがどんなワードの頭文字なのか、推理してみてください。」

◆答えは、コンサート当日の「華麗なるトークコーナー」で発表ですね。他にも普通のコンサートではお目にかかれないサプライズも用意されているという噂を耳にしましたが、ここではお話しいただけませんね(笑)。最後に月並みですが、オーディエンスの皆さんに、ここを聴いてもらいたい、というところはありますか?

MARO 「クラシックに限らず、ライブというものに『こう聴かなければいけない』というものはないので、好きなように楽しんでくれれば・・・僕は、クラシック音楽のスゴさは、『世界中に通じる』ことだと思っています。例えばDurの音(長調:例えばドミソ)を聴くと何となく楽しそうな感じがする。それがミを半音下げてMollの音(短調:例えばドミ♭ソ)になると、何となく悲しげです。あたりまえのことのように思われがちですが、よく考えるとこれはコミュニケーション・ツールとしては最強なのです!どんな国や地域、民族の人でも同じ印象を抱くわけですから。コトバに頼ることなく、一瞬にして世界中に同じメッセージを伝えることが出来る!クラシック音楽は、そんないわば「魔法のコミュニケーション・ツール」だと思っているので、来てくれる皆さんに、その「魔法」を体験してもらえれば嬉しいです。

[インタビュー/構成] OTTAVA ミュージック・ディレクター 斎藤 茂

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クラシック専門のインターネットラジオ局「OTTAVA」(オッターヴァ)


【公演情報】
〜コンテンポラリー・クラシック・ステーション OTTAVA
1st. Anniversary あの名曲シリーズ〜
『篠崎史紀 presents ハートストリングスな夏の夜』

7/19(土) サントリーホール(東京)

≪出演≫
篠崎史紀(N響コンサートマスター)
MARO弦楽合奏団

≪演奏曲目≫
M1 モーツァルト アイネ・クライネ・ナハトムジーク
M2 バッハ G線上のアリア
M3 J・シュトラウスU ピチカート・ポルカ
M4 パッヘルベル カノン
M5 エルガー 愛の挨拶
M6 クライスラー 愛の喜び
M7 J・シュトラウスU 美しく青きドナウ
M8 モンティ チャールダーシュ
M9 チャイコフスキー 弦楽セレナーデ

チケット発売中!
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2008-07-03 10:55 この記事だけ表示