「展覧会の絵」vs.「展覧会の絵」公演へ向けて
清水和音スペシャルロングインタビュー!


shimizu_interview.jpg〜ムソルグスキーの原曲とラヴェルの編曲版、ふたつの「展覧会の絵」が、同じコンサートで「対決」するのは、あまり前例がないと思うのですが・・・〜

清水 「前から実現したら面白いな、と思っていたので、お話が来たときは「よしっ!」という感じで、すぐ、のりました(笑)。
僕たちピアニストでも、ラヴェルの編曲版の印象はとても強いので、ムソルグスキーの原曲を弾く時には、いかにラヴェルから離れるか!が大事になってきます。ムソルグスキーの書いたオリジナルの譜面だけから、何を読み取るか?何を見つけ出せるか?そもそもムソルグスキーの原曲自体がオーケストレーションの下書きみたいなものだから。
だから、そのスコアにラヴェルが触発されたのはよくわかります。もっとも、彼が見たスコアは、ムソルグスキーの原典版ではなくて、リムスキー=コルサコフが手を入れた改訂版だったようですが・・・あれはずいぶん変えてますから、音を足したり。」

〜よく、ムソルグスキーの原典版は未完成なものだ、と言われていますが・・・〜

清水 「僕には、「下書き」みたいに見えますね。未完成なのではなくて、気が利いていない、という感じ。おそらくは、そういうタイプの人だったんでしょうね。一方、気が利いている作曲家の代表と言えばラヴェルですから(笑)、ラヴェルの目には「不出来な」ものに映って、だからとても触発されたのではないかな、手の加えがいがある!ってね。
でも本当は、「無骨さ、気の利かなさ」こそがムソルグスキーの個性だと思いますけど。」

〜「展覧会の絵」というと、ラヴェルの編曲版、オーケストラ版しか聴いたことのない人が、圧倒的に多いと思うのです。「えっ?オリジナルはピアノ曲なの?」という方も少なくない。オリジナル版は、まだまだ知られていない、と思います。〜

清水 「やはりラヴェルのアレンジは素晴らしいですからね。気が利いていて、痒いところに手の届くような、聴き手を楽しませてくれるものですから。
ただひとつの背景としては、長い間ヨーロッパの音楽界に、「ロシア音楽がマイナーなもの」という偏見が持たれていたことも関係しているかもしれませんね。今や、ピアニストのレパートリーの中心にロシア音楽があることは、世界中の演奏家の常識ですが、まだそうなってから、実は日が浅いですから。そもそもロシアのピアニスト達が、自由に国外で演奏できるようになったこと自体、ゴルバチョフが出てきてからのこと、つい最近のことですからね、実際は。」

〜原典版を聴いていると、ピアニストは大変そうだなぁ、と感じます。ピアノ曲にしては、音数が少なくて、「どーーーん」と伸びている音がいたるところにありますね?ピアノのための作品としては相当変わっている曲なのでしょうね?〜

清水 「そう『無骨で、不器用で、ゴツゴツしていて、岩がゴロゴロころがっているような』曲ですね。そして『とりあえず書いたから、後はヨロシク!』という感じがする。言い換えると、ピアニストが、そのまま演奏するのじゃダメで、作曲に参加するような、composeする必要がある。
曲の良さに敬意をもちつつも、ピアニストが自分で作っていかないと、どうにもならない曲なんです。
そしてさらに、ピアニズムがあるかないかも重要で、圧倒的なフォルテシモから、消え入りそうなピアニシモまで出せないと・・・楽器を鳴らしきる能力のようなものがないと、どうしようもないです。本能的、原始的ともいえる能力が求められるんですね。どんなに丁寧に解釈をしても、それが音に出来なくては意味がなくなってしまう、そんな音楽です。
ですから、こういった高度なピアニズムを持った演奏家が、それをひけらかさずに、音楽に奉仕する姿勢で臨む、そうじゃないと、この曲の演奏は成功しないと思いますよ。
「素朴」のひとことですね。ムソルグスキーの、あのポートレートどおり、髭もじゃのオジサンが書いている音楽。だから、きらびやかに弾いても曲の良さは伝えられないわけです。」

〜そんなムソルグスキーの音楽を、フランスの、洗練された音楽を作っていた、ドビュッシーやラヴェルがリスペクトして、そこから学んでいたわけですよね?意外な感じもしますが〜

清水 「ムソルグスキーの歌曲を聴くと分かるのですが、歌曲ってメロディと伴奏だけで成立している極めてシンプルなものですよね?これが素晴らしいのです!それはちょうど、同じくメロディと伴奏だけでたくさんの名曲を作ったシューベルトにも通じるもの。ムソルグスキーの、こうした「本質的な才能」に、ドビュッシーたちは惹かれていたのだと思いますよ。ラヴェルのように「上手さ」、つまり、ひとつの素材をいろいろな手腕で展開する能力が際立っている人とは正反対で、素材の良さ、発想の斬新さだけで出来ていて、しかもそれを惜しげもなく使っているのがムソルグスキー、大変な才能です。」

〜今回のコンサートで、はじめて「展覧会の絵」を聴く、という方に、何かアドヴァイスをいただけますか?〜

清水 「前半が僕の弾くムソルグスキーの原曲なのでで、まずは曲を覚えてもらえれば良いかな(笑)。1曲1曲で、後半のラヴェルのオーケストラ版では、どんな風に、どんな楽器がこのメロディを演奏するのだろう?と想像しながら聴くとか、楽しみ方は色々ありますよね。」

〜では、オーケストラ版は知っているけど、ピアノ・オリジナル版は聴いたことがない方には?〜

清水 「絢爛豪華なラヴェル版とは正反対の、無骨で、気が利かない音楽です。ただ本質的なところでのムソルグスキーのすごさは、磨かれていないからこそ分かりやすいし、メロディひとつ、ハーモニーひとつ、その素晴らしさを発見してもらいたいですね。そしてもうひとつ、ロシア音楽の大きさ!これは、ぜひ感じてもらいたい。」

〜具体的な聴きどころを、少し教えていただけますか?〜

清水 「違い、というところで言うと、例えば、「ビドロ」。オーケストラ版は、ピアニシモで始まって、だんだん大きくなっていきますが、原典版は、最初からフォルテ!強く弾きます。その一方で、最後の「キエフの大きな門」、ラヴェル版は金管楽器で絢爛豪華に始まりますが、ムソルグスキーは、フォルテじゃないんです。メッツォフォルテ!少しくすんだ音で始めなくてはいけないんです。」

〜「キエフの大きな門」の頭がフォルテではない、というのは驚きです。あの曲はまさにクライマックス、遂にここまで来たか!という曲ですよね?〜

清水 「やっぱりムソルグスキーは、変わっている人なんですね。彼に較べれば、あのラヴェルですら、極めて普通の人という感じです(笑)。学んで技量を高めていくタイプと、もって生まれた才能でどこまでも勝負するタイプ、両方あって良いと思うし、だから面白いわけなんだけど、ムソルグスキーは、後者の最たる作曲家だったのではないでしょうか?間違いなく天才ですよね。」

[インタビュー/構成] OTTAVA ミュージック・ディレクター 斎藤 茂


◆ふたつの「展覧会の絵」について

 モデスト・ムソルグスキー(1839〜1881)が、画家で友人のヴィクトル・ハルトマンの遺作展で見た10枚の絵から受けた印象を音楽にまとめたピアノ組曲「展覧会の絵」が作曲されたのは1874年。
この「原典版」はムソルグスキーの生前はまったく演奏されることなく、彼は7年後に世を去ってしまう。
 友人で、ロシア5人組の同志リムスキー=コルサコフが遺品の中から楽譜を見つけ、5年後の1886年にピアノ組曲「展覧会の絵」は出版されたが、この楽譜には、リムスキー=コルサコフによって、数々の改訂がなされていた。36年後、ボストン交響楽団の指揮者セルゲイ・クーセヴィツキーがモーリス・ラヴェル(1875〜1937)に「展覧会の絵」の管弦楽編曲を依頼、彼はムソルグスキーの作曲から48年後の1922年に、オーケストラ版「展覧会の絵」を完成させた。編曲にあたり、ラヴェルはムソルグスキーの原典版ではなく、リムスキー=コルサコフによる改訂版をテキストとした、とされている。

 「リムスキー=コルサコフは、ムソルグスキーに較べると、はるかに『普通の』音楽家だったので、ラヴェルは逆に、彼の改訂版を見て『これならオリジナルを凌ぐものが出来そうだ』と、やる気になったのではないでしょうか?もしラヴェルが最初にムソルグスキーの原典版の楽譜を見ていたら、あまりの独創性と音楽性の違いに圧倒されて、編曲を思いとどまったかもしれない、と僕は思っています」
(清水和音氏談)。


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クラシック専門のインターネットラジオ局「OTTAVA」(オッターヴァ)

【公演情報】
〜コンテンポラリー・クラシック・ステーション OTTAVA
1st. Anniversary あの名曲シリーズ〜
『清水和音 vs 東京フィル 〜ピアノとオーケストラの競演〜』

7/19(土) サントリーホール(東京)

≪出演≫
ピアノ:清水和音
オーケストラ:東京フィルハーモニー交響楽団(指揮:金洪才)

≪演奏曲目≫
ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」
ムソルグスキー 組曲「展覧会の絵」

チケット発売中!
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2008-07-02 18:10 この記事だけ表示
ブルーノ・レオナルド・ゲルバー/インタビュー

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 来日公演の直前に、ゲルバー氏にモンテカルロの自宅でお話をうかがう機会を得た。ハイソサイエティのメッカとして知られるモナコだが、氏のマンションも港のすぐ上の高台に面し、窓からは絶景が広がる。親日家として知られるだけに、過去のツアーの思い出も多いが、それを語る姿は実に楽しげで、日本への愛情を強く感じさせた。

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2008-04-24 10:02 この記事だけ表示
鬼才サロネンに見出され、17歳でロス・フィルと共演して以来、名門オケとの競演、リサイタルで快進撃を続けるサラブレッド、アンドリュー・フォン・オーエン。
海外からメールでミニインタビュー&コメントが届きました。

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■アンドリュー・フォン・オーエン(p) ピアノリサイタル
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2008-02-01 10:39 この記事だけ表示
“ちょっとセレブ”なクラシックコンサートへの出演する、
今をときめくピアノ界のプリンス“及川浩治”さん、そして指揮界の貴公子“飯森範親”さんのミニ・インタビューが届きました!

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2007-06-15 17:49 この記事だけ表示

稲本響 武田双雲 LIVE 取材
1月31日、「稲本響/武田双雲 LIVE」の為の取材がありました。


 
まずは、TBS「ニュースバード」(平日朝4:30−5:30)のインタビューからスタートです。実は、この日が初の顔合わせだった二人。お互いを理解しようと、それぞれが、とてもよく話を聞いていらっしゃいます。

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▼稲本響(p)& 武田双雲(書) お二人からの動画メッセージ

 

 
稲本さんは、身振り手振りを交え、熱く語られています。そんな稲本さんは、“書の音”と自分のピアノの音が、どんな風に合わさるのか。それを体感することを、このLIVEの一つの楽しみにされているそうです。筆の走る音や墨の散る音と、ピアノの音の融合。どこまでも、「音」にこだわる、ピアニストらしい言葉ですね。

 

 
“書道家”というと、寡黙な人物をイメージされる方も多いかもしれませんが、この方は違います。一つ質問をすると、十くらい返ってくるのでは…と思うほどに、とてもフレンドリーにお話してくださいます。一つ一つの質問に対して、本当にじっくりと考え、伝えようとしてくれているから、自然とたくさんの言葉が必要になる訳です。武田さんが、このLIVEで楽しみにしていること、それは、ピアノとのコラボレーションを通じて、稲本響の内面を感じることだそうです。

 
「僕、ピアノを習ってたことがあるんですよ〜」と言いつつ、ピアノを触る武田さん。取材が始まる前にも、ピアノの中を覗きこんだり、ペダルの用途について稲本さんに質問したりと、かなり興味を持っている様子でした。稲本さんも、熱心な武田さんにつられて、先生のように説明→実践で教えられていました。

 
さて、本日のメインイベントですが、二人が、本番を前に初のコラボレーション…と、その前に、ニュースバードの小川キャスターが、私もやってみたい!ということで、急遽、稲本さんにピアノを演奏していただくことに。稲本さんが選んだ曲から、小川キャスターが思い浮かべた文字は「光」。書き出す前は、「超緊張する!どうしよう!!」とドキドキだった小川キャスターですが、集中して、一画一画丁寧に書き進め、「光」が完成しました。書いている間、ピアノを弾きつつも、心配そうに(?)小川キャスターを見守る稲本さんが印象的でした。

 
いよいよ、真打登場です。小川キャスターの時と同じ曲を稲本さんが弾き始めると、武田さんは用意した画仙紙の前に座り、しばらくイメージを探っているようでした。その後、静かに筆をとり、書き始めた言葉は「輝」。画仙紙の中央に書くのかと思いきや、やや右側に一画目を置き、その後も実に軽いタッチで書き上げられました。画仙紙の上を、武田さんの腕が、筆が動く様子は、まさに、稲本さんの音楽に合わせて、墨が踊っているようでした。公演本番では、より大きく、ダイナミックなコラボレーションが生まれる予定です。乞うご期待!!

 
ニュースバードの後は、TBS「Boot!」(月-木 深夜)用に武田さんに1枚書いていただきました。取材スタッフから、「Boot」(ブウト)を当て字で漢字にして書いてくださいとの要望があり、迷いつつも「舞宇都」と当てることになりました。この当て字には、ちゃんと意味があるんです。それは後程ゆっくりと。墨をたっぷりと筆に含ませ、「舞」の一画目に入る前にポタっと墨を垂らした瞬間から、武田さんの筆が滑り出し、ほんの数分(数十秒かもしれません)の間に作品は出来上がりました。

 
こちらが出来上がった「舞宇都」です!かろやかなラインを描きながらも、「都」という文字では力強さが溢れ、「起動する」という“boot”本来の意味が垣間見られるようです。さて、皆様お待ちかねの「舞宇都」の意味ですが、武田さんによれば、「都(東京)で、それぞれの宇宙を持った二人(稲本さんと武田さん)が、舞う(LIVEをする)」ということだそうです。今、これをご覧の皆さん、この二人が舞う、コラボレーションを体感しに是非青山へお越しください!!

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▼稲本響(p)& 武田双雲(書) お二人からの動画メッセージ